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中期経営計画は開示するべき?開示の判断基準をChatwork・BuySell Technologiesの事例で学ぶ

この記事は後編です。前半をお読みになっていない方は、ぜひ前編もご覧ください。

登壇者

井上 直樹
Chatwork株式会社 取締役 兼 上級執行役員CFO

小野 晃嗣
株式会社BuySell Technologies 取締役CFO

竹内 良太
グロース・キャピタル株式会社 エグゼクティブ・ディレクター

■ 開示時の投資家の反応

竹内:次のテーマは「投資家の反応(開示時)」です。個人投資家から、どういう反応があったのか。また、機関投資家について、国内と海外で反応の違いがあれば、教えていただければと思います。

井上:実は、ほとんど無風だったんですよね。中計として「こういう世界観で、4年後に100億円を達成します。こんなことをやっていきます」というものを出したので、投資家の反応を期待していたのですが、機関投資家の反応はほぼ無風でした。株価も無風で、個人投資家からも何の反応もありませんでした。

資金調達の面では一部有効だったことはあったのですが、投資家の反応という意味でいうと、恥ずかしながら、ほとんど無風でした。絵に描いた餅という見られ方をしていたと思います。

一方で、まったく意図していなかったのですが、採用には効果がありました。いわゆるハイレイヤーの方々が中計を見て、「これは面白い」と感じて独自で分析してきてくださることが増えたので、採用の面で効いています。

竹内:「採用面でもプラスに働くのではないか」という議論は事前にありましたか。

井上:特にありませんでしたね。なので信じられなかったのですが、採用を進めるうちに、中計を見たうえで応募していると分かりました。

嶺井:投資家からの反応がどうして無風だったと思われますか。

井上:お手並み拝見という感じだったのではないかと思います。

嶺井:まだ信じ切られていなかったということですか。

井上:そうだと思います。上場してから大きな実績を残しているわけではないですし、あまり信じられていないのが正直なところだと思います。KPIは出していたので「この辺までなら分かる」という感じで、どうやって達成するのかという蓋然性が示せていませんでした。

嶺井:具体的に言うと、どのあたりなのでしょうか。

井上:「CAGRが40%」「売上100億円」という目標でいうと、投資家の目線としては「CAGR30%は分かる。その10%の差を何で埋めるのか。仮に40%できたとして、残りの20億円を何で達成させるのか蓋然性がほぼない」と見られていたのでしょう。我々なりの考えはあったのですが、投資家の求める解像度では伝えられていませんでした。

嶺井:言えない要素で構成されていたから、ギャップが生まれたのでしょうか。あるいは、言える要素だけれども開示ができていなかったのでしょうか。

井上:両方だと思います。値上げの話は言えません。我々としては自信を持って開示したので、それなりに反応があると思っていたのですが、世の中の人は実績や施策に対する蓋然性を示さないと信じてくれないということでしょうね。

竹内:2021年にABBで海外の投資家から調達されていますよね。ABBでオーダーを出してきた投資家さんと、調達後に会話される機会があると思うのですが、その中で中計の達成の蓋然性を聞かれたり、そういった話題になったりということはなかったのでしょうか。

井上:そこには効果がありました。一つの欧州のロング投資家がディールの核になってくれました。マネジメント体制や中計に関してずっとIR面談でも訴求していましたので、そこが調達に繋がったという意味では、非常に良かったと思います。

それ以外は、ほとんどアジアのヘッジファンドだったので、どちらかというとKPIやモデルの話で、蓋然性があるか・ないかという判断で見られました。一定の反応はあったのですが、我々が考えていた世界観とは違った感覚でした。

竹内:小野さんはいかがでしょうか。このたび経常利益の目標である60億円を見直しすると発表がありました。投資家からの反応を教えていただけますでしょうか。

小野:井上さんの投資家からの反応が無風だったというお話は、意外だと思いました。採用をする中で、中計を見てもらえる機会があったというのは共通しています。将来この会社がどう進んでいくかというテーマを一番詳しく説明したのが中計でした。社内全員の目線が引き上がったことはプラスでしたね。会社が何を目指そうとしているのか、言行一致しました。

投資家の反応については、個人に関してはほぼありませんでした。ただ、機関投資家の反応をChatworkさんの「無風」という言葉をお借りすると、強めの「風」を感じました。中計を開示した後、今まで接触していた投資家層はもちろんですが、総合的に新規含めて投資家からの面談の依頼が増えました。

属性については、これまで国内・アジアの投資家が中心だったのですが、例えば欧州や北米の今までお会いしたことのない海外投資家からのアクセス数も増えたので、そういった意味で、当社の資本市場からの見られ方が変わったと感じました。

実際、株価にも変化がありました。開示するタイミングの時価総額は、300億円から400億円弱くらいだったものが、堅調な業績伸長も相まって、2022年の1年間で1度1,000億円まで上がりました。要するに、マーケットから評価されたことが株価に反映されたと見ています。

あと、大手金融機関を含めて、中期経営計画開示後にアナリストカバレッジが4社新しく入りました。カバレッジされた結果、機関投資家に対しての認知度の広がりがあって、そこから更に投資家からの面談依頼が増えていきました。中期経営計画の開示だけとは思っていませんが、中計開示は我々としては追い風になったと思います。

2022年は30億円という期初計画で、結果37億円の上方修正を出したんですよね。中計をなるべく具体的に出すことをテーマに作ったので、それに対しての説明の納得度や信頼度は、中計を開示する前から比べると大きく変わっている実感がありました。フィードバックを含めて、投資家と実際にやり取りをする中で感じたことです。

と、ここまでは非常にポジティブな話をしてきましたが、中期経営計画の難しさや制約を強く感じた経験もしてますので、他社の学びになればと心苦しい中でお話いたします。去年までは非常に順調だったのですが、実は今期業績を下方修正する発表を先日行っています。当社は12月決算なので、来年2月に中計最終年度となる2024年12月期通期の業績予想を発表するのですが、今の時点で利益目標とした60億円は厳しい状況になっているので、一旦白紙にする話を進めています。

財務ガイダンスを具体化するメリットも多分にある一方で事業進捗が思った通りにならなかったときの逆風や事業戦略推進上の制約も感じています。だからこそ中計の目的の明確化とタイミングが重要です。開示するにしても、どの粒度で出すか、蓋然性はあるか、経営陣が密にコミュニケーションをとりながら策定することで、計画からずれた際の振り返りや策定時からのギャップ、再成長に向けた前向きな議論などに正面から向き合えるかと思います。上場後初の中計開示でここまで極端にポジティブとネガティブを経験しているCFOも少ないと思っており、表層的なイケてる中期経営計画を出したいというような安易な考えではなく、経営責任と一体化した中期経営計画の策定に向き合うCFOが増えてほしいという思いが強くありますので、今回はそれを伝えにまいりました。

会場:(拍手)

竹内:非常に深い学びです。BuySellさんの中計は、KPIを非常に細かく出していますよね。

小野:そうです。60億円に達するためのブレイクダウンのKPIとして「ここまで各種KPIが達成すれば、KGIとなる利益計画も達成できる」というプロジェクションに沿ったものになります。資料に出すこともあるし、1on1面談で訴求するポイントもあります。

我々としては、割と経営が科学されているというか、会社の強みとしてデータドリブン経営を挙げている以上、過去からの連続性を踏まえた細かいKPIなどの定量データの積み上げとしての利益計画である点を、丁寧に訴求したいと考えていました。

本来、競合目線でいうと、細かいKPIまでは出すべきではないという意見も絶対にあると思います。要するに、CPAだったり、一訪問当たりでどれだけ稼ぐかだったりは出すべき内容ではないという考えも社内で議論をしました。

ただ、主要KPIを開示したとしても、そのKPIをつかさどる多岐にわたるサブKPIなども緻密に分析しPDCAを繰り返してきています。見た目の数値では絶対に解析ができない、いわば秘伝の項目や戦術が全事業部門にわたって多数あるからです。競合からみての比較指標には当然なりうるが、事業上の脅威にはつながらないという経営に対する自信も強くあったので、主要KPIの開示をする判断をしました。

竹内:簡単に辿り着けないレベルにあるという自信があるからこそ、KPIをここまで出すことに対しても、コンセンサスが取れたと。かつ、投資家からしても、これだけはっきりKPIを出してくれれば、プロジェクションも作りやすいですし、可視化しやすいですよね。

小野:そうですね。実際にも前期までは各事業KPIの改善・伸長を中心に堅調に成長を達成できたと思っていますし、将来も事業成長できる根拠を1on1で丁寧に説明しているので、「この会社だったら、この利益成長を達するのではないか」という信頼を醸成できたと思いつつ、今期は計画未達で信頼を失ってしまったので、本当に難しいと思います。

嶺井:2つ聞かせてください。1つ目は、今のKPIの細かい開示についてです。例えば「CPA1万円」というのを出したら、競合はベンチマークしてくると思います。BuySellさんとして、テレビCMやWeb広告など、いろいろな施策をやる中で目標に向けてチューニングをかけてきたと思うのですが、開示した結果、競合との関係でネガティブな面はありましたか。

小野:我々が実現したCPAの効率を競合が実現できているかというと、おそらくできていないと思っています。ただ中計の難しいところは、3年などの利益計画を出している以上、利益達成を最優先にするバイアスが思っている以上に強く制約となってしまい、経営上も硬直的かつ短期的な目線になってしまうことです。

今期はまさに、逆境でした。特に出張訪問買取市場において、マクロ環境的な影響もあり、例年以上に競合他社が一時的にマーケティング投資を大量投入していたこともあり、当社の問い合わせ獲得効率に対するネガティブ材料の一つとしてみています。例えば、中計を開示しておらず、もう少し事業戦略の柔軟性をもつことができれば、対抗するためのリカバリー投資を追加的に迅速に意思決定できたかもなと思うこともあります。

中計を出している以上、中計に沿った各期計画が大前提になってしまうので、我々としては頭の中では制約にはなっていないと思っている一方で、例えば開示後に認識把握した計画にはないコスト投下や事業リカバリーのための急な投資などの実行是非の協議や意思決定の重石になっている実感は感じた部分も相応にあるので、これも今回、中期経営計画における留意点の一つとしてお伝えしたいことですね。

嶺井:興味深いです。ベンチマークして近づかれるというよりは、CPAを出しているがゆえに、競合が「このタイミングで踏めないだろう」と推測していた可能性があるということですね。

小野:今期は特に広域強盗事件が起きたり、いろいろ重なりました。他社も厳しかったと思うのですが、未上場の競合会社が中心なので我々よりも大胆な投資実行を迅速に行えていると考えている反面、我々としては利益計画の達成蓋然性を重んじた結果、リカバリー投資は実行したものの、競合ほどの大量投資を短期的に実施しないという方針で意思決定してます。

計画に大きな乖離を生まない範囲の一定水準の追加投資をすれば平時水準にリカバリーできるという判断のもと意思決定したため、その時を切り取った戦略決定プロセスは正当化しておりますが、結果的に見込んだ計画水準までは戻らなかった反省もあり、リカバリーための大胆投資の可能性についての議論をもう少し深堀って議論できた可能性はあるのかなと思っているという意味で「中計は経営の足枷になる」とよく言われる通りかなと感じた点もあるので、このあたりのメリデメも丁寧に議論してほしいと思います。

嶺井:勉強になります。先ほど井上さんは「解像度でギャップがあったゆえに反応が薄かった」とおっしゃいました。一方、小野さんは解像度を上げたことで反応されていましたよね。しかし解像度を上げた結果のネガティブな側面も出ているというお話でした。

小野:これだけ自信を持って数字まで出していると、ギャップが発生した瞬間のネガティブは、Chatworkさんよりも大きいと思います。

嶺井:それと、中計を開示しているからこそ踏めない部分があるということですね。

井上:細かく開示しているからこそ、いい影響もあり、そこはトレードオフなのでバランスが難しいですね。

小野:事業モデルでも違うと思います。当社はChatworkさんのSaaSモデルと違って、ストックモデルではなくフローモデルなので、広告費や人件費といった投下コストを回収できる利益を出して初めて合格というのが基礎的な考えにあります

我々が「粗利の成長率40%目指します。トップラインを伸ばします。」と言ったとしたら、投資家サイドからすると意味がほぼないと思っており、生産性を上げながらコスト効率を高めて、利益率を改善していくテーマの下にそれぞれの年度の利益成長率を出すのがマストだと思っていました。これも会社の事業モデルやフェーズで大きく変わるはずです。

嶺井:純粋にトップラインや利益を上げるのではなくて、生産性を高め利益率も上げることが大事なのですね。

小野:それはセットですね。なので難易度が高いと思います。

井上:あと、マーケットに対して魅力的に映るかという視点も必要です。3、4年前はトップラインだけを見せていても、投資家は反応していたと思います。今はトップラインを見せても誰も反応しません。つまり、利益サイドのガイダンスも開示しないと誰も反応してくれないわけです。

4年前の40%伸ばすという目標は、一時期は効果がありました。しかし今は「で利益ではどうなるの?」という状況になっています。解像度の話もあるのですが、市場センチメントを見て誰に対してどう出すのかを意識する必要があると考えています。

嶺井:何が重視されるタイミングなのか、ということですね。

井上:そうです。我々は、最終的な目標である資金調達をすることが重要になります。結局バランスが大事で、論点として必須です。またテーマは絶対に必要ですね。「なぜ開示するのか」が重要になります。

小野:ネガティブな部分も理解したうえで判断した方がいいですよね。資金調達時はレギュレーション上、語れることにも制約があります。しかし、先に中計を出すことによって来るべきファイナンス実行時に、事前に中計を前提にコミュニケーションをとっている投資家が多い状態を作っていたり、オファリング時ではじめましての新規投資家へも「中計は別途開示してます」などのコミュニケーションがとれるわけです。中計を開示する一つの材料になると思います。

CFOとしては、ファイナンス実行時に発行体としても既存株主などのステイクホルダーに対しても、適正な株価水準で合理的なファイナンスを適時に実行することが重要なミッションの一つなので、それに対する前準備として中計をどのタイミングで出すか、どのレベルで出すかが重要です。

「IR的に中計だしたほうがよさそう」などの何の目的もないままで出すと、あまり効果が得られないし、なぜ出したのか振り返りができません。目的は絶対に設定した方がいいと考えています。

嶺井:小野さんに伺いたいのですが、中計を見直したことで起きた逆風には、どういうことがありましたか。

小野:逆風というか、我々が「コミットメントでここまでやります」と言ったことを裏切っているので、信頼性が落ちるのは当然と考えています。繰り返しになりますが、IRでは、中計を出したからと言って急に信頼度が上がることはまったくなくて、地道なIR活動の積み重ねと全投資家との丁寧なコミュニケーションが大前提としてあり、その延長でより中期的な経営戦略のコミュニケーションツールとして有効な手段が中計と思います。

バイセルが具体的に出したがゆえに達成できなかった時点で、IRというよりは経営のミスだと考えています。そこをネガティブに捉えられるのは仕方がありません。改めてゼロイチで考えて、今期・来期以降にどういうリカバリーで再成長の軌道に乗せるかというコミュニケーションをとっています。

一方、「今まで株価が割高だったから、割安になるのを待っていた」と言う新規の投資家さんが増えているのも事実です。「今期はうまくいかなかったけれども、リカバリーで再成長するのを信じています」と言ってくださる投資家もいます。その時々のマーケット環境や会社の状況などでIR戦略も投資家属性も変化するという点で、中計開示後に投資家数が増えた当社からすると、様々な投資家層を広げるという効果の恩恵を逆風下の中での気づきとして改めてとても重要に感じました。

■ 中計開示の見極め方

竹内:次のテーマは「どのような会社が中計を開示すべきで、どのような会社が開示すべきでないか」です。これまでの話を見ても、いろいろな切り口がありそうですね。例えば、調達を考えている会社が開示するメリットは出てくるかもしれません。人材採用やタイミングといった話も出ました。

多くの上場スタートアップのCFOから中計を開示すべきか悩まれているという声をいただいています。悩んでいる方に対して、どういうアドバイスをされますか。

井上:これまでの議論の中でいくつか要素が出てきた気はします。例えば、解像度の高さ、KPIの詳細さ、利益を出すか・出さないか。あとはフェーズやビジネスモデルでも変わると思います。競合の影響もありますね。ここは社内でも議論しました。

実は社内と社外、ほぼ同じ資料で説明しているんです。割と定性的な部分は解像度を高くしているのですが、競合は完全に模倣できないだろうと見ています。目的なく中計を出すのは、ほぼ無意味だと強調しておきたいですね。
先ほど社外の話をしたのですが、社内のメンバーが一方向を向くのは、大きな効用があります。例えば、この3年間で社員は3倍以上に増えています。上場したときは100人くらいでしたが、今は500人弱なので、3年間で人をかなり増やしました。

戦略で人をマネージしていくことが重要です。100人であれば人でマネジメントできると思うのですが、500人になると戦略でマネジメントしなければいけません。会社のフェーズが変わっていく中で、中計を開示する効果は大きいと思います。社員が同じ方向を見てくれます。

あと、経営陣の中でも中計が既成事実化していくんです。初めは厳しいと思った方がいるとしても、ずっとそのコミュニケーションをするので、どうしてもそうせざるを得ないという見えない力が働きますよね。そういったフェーズの変化上、有用な会社は開示してもいいと思います。

竹内:小野さんから追加でアドバイスはございますか。

小野:井上さんの話とほとんど同じですね。目的をセットアップすることが大事ですし、どういう効果を期待して、なぜ中計を開示するのかを経営陣全体で議論することが大事だと思います。

あとは、当たり前ですが経営戦略自体の解像度が低いのに中計だけを出すと本末転倒です。大前提として、経営戦略について経営陣のコンセンサスがとれている状態のときに出すべきです。

市場に対しては、ファイナンスのマイルストーンという裏のテーマを持つべきだと思っています。あとは各フェーズの投資家の反応で、期待値調整を一番担えるのが中計です。

今までは今期の実績と来年の予算という前提の中で投資家と会話していましたが、3年~5年というスパンでフェアディスクロージャーのもと投資家とコミュニケーションをとりやすくするには中計が一番だと思っています。

■ 反省点を振り返る

竹内:中計の発表前に戻れるとしたら、策定や開示の方法で見直したいと思う部分はありますか。

井上:うちの場合、分かりにくかっただろうなと思っています。例えば「CAGR を40%上げたら、売り上げ100億円に達するの? そうじゃないのか?」という分かりにくさがあるので、開示の仕方に気をつけたいですね。

BuySellさんのように自信があればKPIを出した方が良かったと思います。そこが反省点です。当時その判断ができたかは別として、今は出した方が圧倒的に反応はあると思います。

竹内:Chatworkさんが中計を開示したのは、2021年2月ですね。

井上:当時は2021年12月以降にマーケットが崩れました。それまでは完全に「トップラインを獲りにいきましょう」という市場でしたね。

竹内:4年もあるとマーケット環境も変わりますね。

井上:期間を3年以下にすることはないと思うのですが、4年は長かったかもしれません。

竹内:小野さんは、いかがでしょうか。

小野:2年前、中計を出して株価を上げようという意図はまったくありませんでした。我々は2年前の時点で、自信を持って解像度を高くして開示したので後悔はないんです。ただ反省点としては、今こういう結果になったので、振り返ったら解像度が低かったということで、自分に往復ビンタをしたいです。。

嶺井:ちなみに2年前と今のギャップは、どこにありますか。

小野:一番は広告戦略の部分ですね。問い合わせで、今までにない苦しさがありました。マーケット環境もあるし、競合の影響もあると思っています。我々は問い合わせをベースにアポイントをとり、初めて出張訪問ができるビジネスモデルです。CPAも重要ですが、それ以上に利益創出の源になるのが、出張訪問件数と、出張訪問した際に獲得する粗利額となります。このビジネスモデルの特質上、マーケティングの入り口でつまずいてしまったので、リカバリーが非常に難しい期となりました

中計開示までに私自身もこの会社に5年ほど在籍しており、過去のトラックレコードとして、期初の計画に対してマーケティング事業のKPIの乖離はほぼなかったですし、重要KPIの中でも、当社としては一番達成確度の手触り感を持てていたのが問い合わせ数とCPAだった点も踏まえると、今期ほど計画との乖離が出たこともなく、かつ、CPA含めて乖離幅がアンコントローラブルになったのが初めての経験だったため、2年前には当然に今期の状況は想定できませんでした。

嶺井:中計を出したから招いたことなのでしょうか。

小野:そういうことではないと思います。

嶺井:逆に、中計を出さなかったら60億円達成できたという、分かりやすい話ではないと。

小野:他社が中計を見ただけで戦略の解像度を上げられるとは思えません。おそらく、中計を出していなくても同じ結果になったと思います。ただ、勢いよく業績を上げてきた会社なので過去からの事業成長の連続性を前提に、プロジェクションの見立てが甘かった面があるかもしれません。

嶺井:実際にいくつかシナリオがあったのでしょうか。

小野:コンサバティブとベースで作ったのですが、結局どちらも今までの延長線上で、ここまでマーケット環境が変わる、競合の戦略が勢いよく変わることを想定していませんでした。ここの前提が間違っていたので、発行体してコントロールが難しい市場が変わることや大きな変化が起こることを前提にして、ダウンサイドの可能性を加えながら中期的な戦略を議論すべきだったというのが反省点ですね。

調子のいいときは、業績悪化時の下振れ幅を低めに設定しがちな点はあると思います。悪くなって初めて気づく部分がありました。どの会社も絶対にそういうタイミングが来ると思います。こうなった以上はIRや中計とは関係なく、これから先、来年・再来年に向けて、どうやってリカバリーして再成長していくかに経営議論をフォーカスしています。

そういう意味では、経営戦略の話になりますね。中計を開示することで短期志向になったり、利益を優先したり、事業戦略の幅が狭まる結果になることだけは回避できるように経営陣が明確に意思を持つことが重要と思います。

嶺井:より理解や評価を得られるようにしようとすると、解像度を上げる必要がある。しかし、解像度を上げると、それが足枷になるということですね。

小野:トレードオフがあることを経営陣が理解したうえで開示するかどうか意思決定することが大事だと思います。

嶺井:そのトレードオフを理解したうえで解像度を高めて開示するならば、足枷になる部分を上回るくらいの調達やM&Aをやっておいた方がいいと捉えたらいいでしょうか。

小野:そう思います。何度も言いますが、目的のない中計の開示ほど意味のないものはないと考えています。中計の開示は手段です。目的を会社全体でコミットして設定するのが一番大事だと思います。なぜ開示するのかにこだわりましょう。

■ Q&A

竹内:ここからは会場の皆さんからの質問を受けつけたいと思います。

質問者:中計を出した後、徐々にかい離が起きたときに投資家へ向けて、どういうコミュニケーションをしていくのか。例えば「この目標は達成しませんよ」とは言えないと思います。

最初は「達成します」と伝えていたものが、徐々に「目指します」「頑張ります」という言葉に変わっていきますよね。CFOとして、どのタイミングまで強気でいくのか、投資家に対してどうコミュニケーションをとるといいのか、意識していることはありますか。

井上:何が変わったのかという話は重要だと思います。掲げたKPIに届いていない背景を丁寧に話しています。実は今回の決算発表で大失敗していて、業績予想を大きく外しているんですよ。

これに対して投資家からいろいろな質問があるのですが、背景の説明をしました。具体的には「達成が後ろ倒しになっているだけで、実はKPIの角度は変わっていません」と説明しています。単にKPIのトレンドから「こうなりそうです」と説明するのとは、投資家の受け取り方が結構違いますね。そこを注意して説明していますね。

「角度は一切ずれていません。若干後ろ倒しになりました」と説明しています。説明の仕方によって投資家の方々のモチベーションが変わるので、気をつけています。要するに、グロースなので角度が大事だと思っています。

小野:なぜそのギャップが生じたのかを、会社内で明確に認識することが大事ですよね。ギャップの発生した原因が一過性で、例えば今年度の利益計画は未達だけれども、最終的な中計のゴールに対しては達成できる自信があれば、中計でリバイスは必要ありません。そういうコミュニケーションでいいと思います。

一方で、社内的にも諦めている状況なのに、それをギリギリまで公表せず、ネガティブサプライズを急に出すのは良くないと思います。きちんと分析して、なぜかい離しているのか明瞭性を持って経営に落とし込んで、それをベースにコミュニケーション方法を考えるといいのではないでしょうか。

質問者:中計は今の姿と見えない未来を見せるものだと思っています。対投資家となると、いくら稼げるのかという話は絶対に避けて通れません。その中で定性的な部分を含め、いかに訴求するかが大変だと思います。

結局、中計では数字が大事なのか。それとも定性的な部分を含めて、数字以上のことも伝えられるのか。どちらだとお考えですか。もし後者であれば、何を伝えればいいのか教えていただきたいです。

井上:正直マーケットによると考えています。今は良い未来を描いたとしても、なかなか評価してくれないマーケットだという感覚がありますね。最終的に利益に落ちてこないトップラインで示したとしても、あまり理解されません。

一方で3年前、4年前は全然違う状況だったと思っていて、むしろ「定性的でもいいから、どういう世界を考えているのか」というのも求められていました。発行体が対応できるレベルは限られています。同じことを言うのですが、どこの側面が見られるのかは、マーケットの環境によって変える必要があるのではないかと思っています。ただ誤解なきようコミュニケーションの仕方であって、経営の軸はブラさない前提ですが。

中計は3年間あり、その間にも変わる可能性はあるので、投資家面談でコミュニケーションを変えていくイメージで、私は捉えています。

小野:会社によって事業モデルも変わると思っています。我々のようにリアル系のリユース企業であれば、将来だけを定性的に語っても説得力がないので、具体的に定量的な数値を出しながらコミュニケーションをとることがマストだと思って開示しています。

一方で、定性的な将来の未来予想図を抽象的に開示するだけで、投資家に対して納得感が出るかというと、そんなことはないと思います。どこまで数字を出すかも含めて、ある程度、定量的なお互いの目線を合わせられる水準で開示していくことが中計上必要です。投資家も夢物語だけを聞いても納得感がないので、CFOとして一番考えるポイントだと思います。

質問者:総合的に見て、中計を作って良かったですか。良かった場合、どの辺が良かったのか。また、もし「こうしたら良かった」という話があれば教えてください。

井上:中計を作りたい派、作りたくない派、作らない方がいい派など、いろいろあると思うのですが、私は前職での経験も含めて、中計は絶対に作るべきだと思っています。

繰り返しになってしまうのですが、経営の目線が同じ方向に向くのは重要だと考えています。内部だけの議論で生きる部分と外圧を使う部分もありますよね。IRを通じてマーケットに示すことで外圧がかかるので、CFOはその力も使うべきです。もちろんケースバイケースになるのですが、そこを使ったうえで、経営を一つの方向に向けていくことはCFOの重要なミッションだと思っています。色々なご意見があるのは理解した上で、私は特別な事情がない限り、中計を作って開示すべきという感覚です。

小野:私の考えも井上さんと同じで、中計は作るべきだと思います。開示するメリットが多くあるからです。経営陣がどういう考えで、具体的にどういう解像度で経営戦略を考えているかアウトプットする機会という意味では、目線合わせができる一番の機会になります。

あとはIRで、どういう効果を期待するかというのは、正直難しいところもあるので、中計を開示するポイントとしては「IR的にいいらしいよ」という、ふわっとした感じで出すのは絶対に反対です。

しかし結局、開示することによって生まれるものもあります。特に井上さんがおっしゃったとおり、我々は3年後に60億円を達成するんだという具体目標を出すことによって、来年の予算だけでなく3年後に60億円を達成するためにどうすればいいのか、何が必要で何が足りないのかという議論に変わったんですよね。これが一番の恩恵だと思っています。

会社としてのコミットメントを社内的にも、社外的にも、コンセンサスをとって進めていく、それが中計の一番重要な定義だと考えています。なので、開示することには意義があると思います。

嶺井:中計を作るうえで参考にした企業、書籍などはありますか。もしくは、策定後に「この中計いいな」と思ったものでも構いません。

井上:開示の仕方は各社各様というか、ビジネスモデルも全然違いますよね。ビジネスモデルによっても出せるKPI、出せないKPIがあって全然違うと思うので、グロース銘柄で開示している中計は一通り目を通しました。どういう出し方をされているのかを見る中で「自分たちはこれを出せるけれども、これは出せない」といった議論を継続的にしました。

直接的な競合が国内の会社でなかったりするので、どこかの一つの企業を真似たというよりは、いくつかの企業の状況を見ながら参考にさせていただきました。

参考にした書籍はないのですが、注意したのは重きを置いている前提を明確に設定したことです。社会情勢もそうだし、マーケットの環境もそうで、「自分たちがこういう状況だったら、こういう数字ができる。この場合、ここを目標にできるけれども……」というように前提の置き方によって、パターンをいくつか考えました。要するに、振り返ったときに達成しなかった理由が明確に見えることを意識しています。

嶺井:例えば御社のビジネスモデルだった場合、どういうことが前提になったのでしょうか。

井上:うちのビジネスモデルでいうと、ネットワーク効果で広がるので、極論すると、広告宣伝費をかけなくてもユーザー数が伸びていくモデルです。ここは我々の大きな強みだと思っています。広告宣伝費をかけないと課金していただけるユーザーさんが増えないわけではありません。無料版と有料版も含めた全ID数の伸びを正確に読めるのは、モデル上の強みなので、ここを見据えて事業計画を作っています。

それ以外で、どういう前提がどう来ると、伸びるのか・伸びないのか。リカバリーはどのようにできるのか。どのくらい前倒して計画すれば達成するのかを議論をしたうえで出しました。

嶺井:それは社会情勢、例えばコロナ禍でリモートワークが普及したことだったり、何かの環境を前提として数字を出しているということですか。

井上:ビジネスチャットは解約しないことがほとんどなので、我々の価格体系や課金体系をいじることで、一定のチューニングができる、コントローラブルなものという考え方が基本にあるわけです。

そのうえで、どのくらい前倒して価格改定を計画すれば、チューニングできるかを社内で握っておくようにしました。そうすることでモデルの蓋然性が高まります。もちろんチューニングは社会情勢や会員登録の状況の伸びだったりを勘案して、柔軟に変えられるという前提ではあります。

小野:私も参考にした書籍はありませんでした。他社事例については、大小さまざまな会社がある中で、プライム市場なのか、グロース市場なのかも意識しながら気になる事例を見ていきました。コンテンツだけを表面的に真似ても、形式的な中計になってしまうので、これだけは避けたいと思っていました。

中計に限らずいいIRだと思うのは、明確なストーリーがあったり、連関性があって一気通貫されていたりするものです。投資家にとっては理解しやすいと思います。例えば、メドレーさん、ラクスルさん、SHIFTさんなどは会社の経営テーマが明確にあって、すべてのスライドに一貫性を持って開示されていると思います。

また、信頼を持って相談できる壁打ち役を引き受けてくださる、伴走してくれるパートナーをCFOネットワークで見つけることも大事だと思います。私自身も社外役員で機関投資家出身の方やIR経験が豊富な方に、適時に壁打ちさせていただいて、自分の中の解像度が上がったということがありました。

他社事例を真似るよりは、親和性の高い会社を参考にしながら、実際に経験豊富なCFOの方などに具体的な論点を明確化したうえで相談することが一番いいと思っています。

嶺井:この会の後に、小野さんに聞いてもいいということでしょうか(笑)

小野:現状はもっぱら反省しきりなので、次回の中期経営計画を達成できたらでお願い致します(笑)。反省点は、いくらでもお話ししますよ。CFOは全社横断的な検討事項が多く、相談したいことがたくさんあって、悩みポイントも多い。中期経営計画は、CEO、取締役、事業サイドなど、縦横無尽に立ち回りやコミュニケーション、利害調整が必要になりますので、普段からの経営と事業側との密なコミュニケーションが本当に必要だと思いますね。

嶺井:アウトプットを真似るのではなくて、アウトプットに至るまでにどういう議論があったのか、どこが佳境だったのかを小野さんや井上さんから聞かせていただくことで学びになったり、もしかしたら同じ轍を踏まないようにできることもありますよね。そのまま真似をする、見た目だけ同じことをやると、うまくいかないと思います。

小野:投資家も気づきますよね。

嶺井:「またミルフィーユ図かよ」みたいなね。私もミルフィーユ図を作っていたので、何も言えないのですが(汗)。

小野:今回は割愛していますが、通常の決算説明資料でも同じです。M&A戦略でも、具体的にどういう領域で、どういう投資ポリシーで、どういう優先順位でやっていくかが大事です。それを中計に盛り込みました。あとは、それに至る投資プロセスです。キャピタルアロケーションや投資規律、財務方針でも、通常ではなかなか丁寧に説明できていないポイントを中計に盛り込むことを意識しました。要するに、この会社はきちんと考えて、投資実行されている、と伝わるからこそ信頼に繋がると考えています。

M&Aは投資家からすると、具体的案件の開示がない中では特に、ポジティブに考えることは難しいと思っています。無茶なM&Aをする会社もあるからです。冒頭で、当社がインオーガニックで、あえて利益計画からM&Aを切り分けたのは、利益計画を達成するためだけの規律や戦略に沿わないM&Aをしないためでした。「利益予算に足りないからM&Aをしよう」という考えは本末転倒なので、それを絶対に避けるためにM&Aを切り分けました。

嶺井:整合性が取れているんですね。

小野:そうです。投資家はプロなので、上辺の中計はバレると思います。

質問者:中計の期間は自由に設定できると思うのですが、何年に設定するべきなのかと、その理由を教えていただいてもよろしいでしょうか。

井上:一般的には3年、5年が多いのですが、その設定もどう見せたいかによると思っています。例えば、投資家が織り込むという前提では3年が限界ではないでしょうか。5年に設定する場合は、将来の世界を見据えるといった目的のある企業になると思います。目的によって変えるとうまくいくと思います。

うちでいうと、基本は3年だと考えています。どこかで調達をするという前提にすると、3年くらいが投資家も織り込みやすいからです。長くすると、定量的な数字が出しにくいと思います。

質問者:ストーリー性というお話と、定性的・定量的の両面があるというお話がありました。定性情報を支える数値は一緒に開示すべきなのかどうかをお聞きしたいと思います。例えばChatworkさんであれば、スーパーアプリ化するために、どういう領域、いくつの領域に出るのか。

そういった数字を示す必要があるとは感じつつ、ただ、その数字を言われたところで、投資家は業績予測モデルに取り込みにくいと思う部分もあります。ストーリーとの一貫性のための定量的な数字と、それこそCPAが分かりやすいのですが、業績予測モデルを組み込むための数字。数字は2種類あると思っています。これらのバランスやチョイスの仕方について、もしアドバイスがあれば教えていただきたいと思います。

井上:おっしゃる通りだと思っています。「ビジネス版のスーパーアプリになります」と伝えているのですが、そこまでの解像度が低すぎて、なかなか投資家の理解が得られなかったという反省があります。その前提として定性的な部分の定量データの話は必要だと思っています。それらの数字は出した方が絶対にいいと思っていて、我々も出すべきでしたが、できなかったわけです。

ただ出したとして、投資家がどこまで組み込んでくれるかというと、主力事業のKPIが前提で、それ以外は差分で見られています。そこの蓋然性をどこまで上げられるかという定性データの中の裏づけという位置づけになると思います。

おっしゃるように、そこは出すべきだったと思いますし、領域くらいは示すべきですよね。今後、新たな中計を出す場合は、今おっしゃっていただいた部分や利益の話をしっかり考えたいと思っています。

小野:投資家のニーズに応えようとして、プロジェクションの蓋然性を高める目的でやりすぎる必要はないと思っています。ただ、先ほど申し上げたとおり、会社が思っているより投資家の評価が低くて、うまく期待値調整ができていないのではないかというところでいくと、事業解像度やプロジェクションの前提がその原因になっている可能性があります。投資家が考えていることと会社の思考にずれがあると思っていて、そこに関して修正が必要な場合は、修正に資する範囲で開示を検討するのが大事だと思います。

ただ3年後、5年後の定性的な戦略に対して、どこまで定量化すべきかも投資家とのコミュニケーションにおける納得感だと考えます。コミュニケーションのプロセスの中で、多少でも定量的なデータを踏まえた方が、お互いがプラスになったら開示すべきだし、そこに目的や意味がなければ、無理して開示する必要はありません。

質問者:今の質問に関連して、特にChatworkの井上さんに聞きたいのですが、成長戦略としてPLGとBPaaSがあります。定性的なビジョンは、中計を開示するために考えたのか、もともとあった考えを言語化したのか伺いたいと思います。

当社はちょうど上場後1年で、これからの成長ストーリーを投資家から求められることが多くあります。どういう流れで、定性的なストーリーを考えたのかを伺えればと思います。

井上:「中計を開示するまでに半年くらい準備をした」と申し上げましたが、実はPLGとBPaaSはキーワードを当てはめただけで、元々そういうことはやっていたんですよね。

ただ、それがどういうことなのか社内でまだ言語化できていなかったので、中計策定の間に言語化してきたわけです。言語化することによって、戦略自体もシャープになっていきました。そのうえで開示したので、中計を出したいがために作ったというよりは、もともとやっていた戦略をより言語化した方が近いと思っています。

私個人の考えとして、社内の言語を使うのは避けようと思っていました。実は「PLG」は海外でよく使われている言葉です。日本ではUB Venturesさんが使い始めたのを見て「あ、これだ!」と思って採用しました。

「BPaaS」も、なんとなくイメージがあったので、CVCの担当に「これって、なんて言うのか調べてみて」と依頼して「これがいいんじゃないですかね」と2〜3個提示していただいて決めました。

嶺井:策定の議論にあたりファシリテーターなど外部の人を入れたのでしょうか?

井上:うちは社外の方は入れていません。ですが、それも一つのやり方としていいと思います。象徴的なキーワードがあると、投資家の耳に残りやすいですし、なんとなくイメージがしやすいので分かりやすいですよね。

嶺井:今日ちょうど昼間に、CFOの方とディスカッションしていて「社長がなんとなく思っていることを言語化するのが難しい」と言われました。すごく大変なのが分かります。

井上:重要なことですよね。ただ、僕はその辺りのセンスがあまりなくて、どちらかというと、外に情報が散らばっているはずだと考えています。そこの言葉を積極的に流用しようとしました。

嶺井:新しい言葉を生み出すより、すでにある言葉を使った方が投資家の理解を促せていいかもしれませんね。

井上:日本の投資家の方々が知らない言葉でも、海外の機関投資家の方々は「ああ、なるほど。それはZoomが言っている言葉と同じだね」という話になることがあります。国内投資家の方々には「海外で使われているのですよ」と伝えて啓蒙する活動をしましたね。

質問者:中計を作るときに蓋然性を高くすることが求められると思います。その際に、積み上げて数字を作ると思うのですが、その解像度はどこまでブレイクダウンして作ったのでしょうか。

例えば1年後であれば、マーケットの施策や営業方法が見えると思うのですが、2年後、3年後は解像度が高くない中で、その数字を作るには、どういう施策をどういうタイミングで、どう実施していくのかを、どこまで解像度を高くして作ったのか知りたいと思っています。かい離が生まれてしまったことを投資家と話すときに、「違っていたんですよ」という説明はきちんと前提があるうえでしか話せません。どの程度まで作られたのか教えていただければと思います。

小野:すごく難しい質問ですね。本音ベースでお伝えすると、1年後、2年後、3年後それぞれ区分けして、「これをやれば、絶対にここまで達成するよね」というものを整理しました。具体的には、来期予算に関しては9割達成を前提にして、1割分はやってみないと分からないという考えで現場とも、かなりすり合わせをしました。この割合が、2年後、3年後と解像度は、時間が経つにつれて低くなることはやむを得ない部分もあると思っています。

井上:インパクトのある施策は会社ごとに全然違うと思うのですが、先ほど値上げが一定コントローラブルであるという話をしました。解約率があまり高くならないので、そこのオプションを持っていれば、正直最終的にはなんとかできるという感覚はあります。むしろ、それをどこに置くかということについて役員内のコンセンサスを取っておくことは重要だったと思います

あと大きな議論としては、M&Aをどのタイミングでどうやるかという設計は、ソーシングも含めて計画をする流れがありました。

おっしゃるように2年目、3年目でそれぞれ濃度が薄くなっていくので、蓋然性も薄くなっていくのですが、最終的に合わせるために今話した大きな2つの施策をどう組み込むかというのは、前倒しで議論しています。

小野:解像度に応じて、開示の仕方が変わるんだと思います。保守的に数字を出すのか、レンジで出すのか。経営戦略によって解像度が会社によって違うので、臨機応変に議論すべきだと思います。

嶺井:井上さんに質問をするのですが、打ち手としての値上げを持っている中で、値上げすることによって解約率が高まる影響度は、やってみなければ分かりませんよね。そこは、どのように想定していたのでしょうか。

井上:実は過去に細かい価格改定をずっと行っていました。どこまで値上げすると、解約率がどのくらいになるのかという知見がたまっている状態です。今回5割弱の値上げをして、解約率はほぼ変わりませんでした。知見は溜まっているので、解約率を低く抑えられるという前提です。

結局、目標を達成するために、値上げするべきタイミングは分かっているので、その調整幅をどれくらいで行うかを経営として決めた方が、前向きに物事が進むと思います。

竹内:ご質問ありがとうございました。井上さん、小野さんも、お答えいただきましてありがとうございます。これにて勉強会を終わります。

本日の勉強会が上場スタートアップの皆さんの学びとなれば嬉しいです。

以上