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ファンドマネジャーが明かす投資先選定の基準とは?

この記事は後編です。前編をまだお読みになっていない方はぜひ前編もご覧ください。

登壇者

岩谷渉平
アセットマネジメントOne株式会社 ファンドマネジャー

河原亮
株式会社メドレー 上級執行役員 ファイナンス統括部長 兼 取締役 CFO

杉山賢次
武士道アセットマネジメント株式会社 代表取締役社長兼CIO

嶺井政人モデレータ
グロース・キャピタル株式会社 代表取締役

■ 市場環境を踏まえたアクションと今後の戦略

嶺井:二つ目のテーマにいきます。「その市場環境認識を踏まえて、これまでどのようなアクションを取って、今後どのような戦略を立てているか」というテーマですね。これはファンドマネジャーの皆さん、答えづらいですかね。河原さんから伺いましょう。

先ほどの社内の話もそうだし、IRの話もいろいろ触れていただきましたが、ここまで触れていないことでプラスがあれば、ぜひお願いします。

河原:自己株買いですかね。

嶺井:21年に自己株買いされていましたね。

河原:当時「グロース企業なのに自己株買いするのか」という議論もあったのですが、配当ではなく株主還元をやるのであれば自己株買い。株価が下がった時にやるという話はずっと言い続けてきたので、トライしました。

株主還元を実施する姿勢に加え、今株価が下がっている中で、経営陣として低いと思っているというシグナリング効果も一定あったと思います。

嶺井:それが取ったアクションということですね。今度はファンドマネジャーの皆さんに伺います。この市場環境、2021年秋以降にグロース銘柄で逆風が吹いている中で、どういうアクションを取られたり、今後どうしていこうか話せる範囲で話していただければと思うのですが、岩谷さんいかがでしょうか。

岩谷:ギアを5速に入れて買っていますね。

嶺井:今、買い場だと思っているのですか。

岩谷:去年はそうでしたね。

嶺井:あと、IPOをしておくべきだと去年おっしゃっていましたよね。

岩谷:そうですね。去年6月が底ではないかと思っていたので、確かにグローバルにはいろいろ向かい風だけれども、日本の中では向かい風になっていないと思うので価値を上げていれば、そんなに問題ないと思っていますね。

嶺井:岩谷さんのお目にかなう成長している、成長しそうな会社に関しては、引き続きどんどん買っているということですか。

岩谷:特に価格面でいくと、こういうときはいろいろな都合でクラッシュしますよね。いろいろな事情があって価格が下がる。価値はそんなに下がってないとしても、価格がすごく下がることがあるので、そういうものについては買います。

流動性がない、開示が悪い、小さい、わかりにくい、M&Aしている、海外で成長しているなど一般的にディスカウントされやすい要素はいっぱいあります。例えば、ディープテックでは成功確率が見通しにくいなど、いろいろあります。こういうものが魅力的にみえます。

嶺井:杉山さん、いかがですか。

杉山:裏の投資家というか、我々のファンドに投資してくれている投資家へ「私が今日言うことは明日変わっているかもしれません」と常に伝えています。

嶺井:それはあり得ますね。

杉山:本当にしょっちゅう変わるんです。

逆に言えば、すぐに考えを変えられるとも言えるのですが。
例えば今考えていることで言えば、、、事業のPLにコロナ特需(あるいはリオープン特需)があるのではないかどうか。望んだ特需か、狙った特需かは別として、それがあったのか、なかったのかという見極めを今は気にしていますね。

嶺井:その視点だと、逆に買いやすい会社はどういう会社になりますか。

杉山:一番は経営者がコロナ特需(あるいはリオープン特需)だと理解しているかどうかです。21年の時点で理解していると、コロナ特需は22年か23年のどこかで反動がくるので、その前に対策を打っていると考えられている会社は安心感がありますね。コロナ特需が続く前提で考えてしまっている経営者がいますが、そうなると厳しいです。

嶺井:今の話の視点を少し変えると、例えば、この23年はアフターコロナ特需も効いています。飲食の皆さんかもしれませんし、旅行関係、小売かもしれません。経営者がどう捉えているのか。そのビューに立って、どういったアクションを打っているのかを見ているのですね。

杉山:そうです。裏の裏ではないのですが、、、今、リオープンで値上げが許容されているマーケットですが、延々と値上げはできないし、延々とリオープンは続きません。どこかで反動が来ます。これを特需だと思って、次の策を経営者が考えているかどうか、CFOがそれをきちんと伝えてくれているかという点が重要です。

■ ファンドマネジャーが投資先を見つける際にしていること

嶺井:杉山さんから次のテーマにつながるお答えをいただいたので、杉山さんにこのまま聞かせてください。どういう質問をして経営陣の視点を見に行っていますか。

杉山:一言で答えるのは難しいですね。繰り返しになってしまうかもしれないのですが、経営者・CFOが楽観的になっていると、うーんと思いますよね。

嶺井:まずはそこですね。

杉山:1年後、2年後をどう考えているか。5年後までは見なくてもいいけれど、合っているかどうかは別としても3年後くらいまでは、各社業界の市場環境がどうなっているか妄想しておいてほしいです。それに対して、自分たちはどう手を打っているのかと。

もし、想定どおりならなかったらケースBではないですが、とにかく先を考えていてほしいです。中期的な視点が少なく足元の策で手一杯になっていると、大丈夫かなと思います。

嶺井:将来に対して保守的だからこそ、そこへの備えができている人が評価されているということですね。ありがとうございます。岩谷さんいかがですか。すごくざっくりした質問ではあるのですが。

岩谷:偉そうなことを言える感じではないのですが……。実は困っているのは、株を売ったり買ったりしてはいけないという教育をうけてきました。やっていないと親に説明しないといけないんで大変です。できれば1回買ったら売らないで済むものを……。

嶺井:買ったり売ったりのセットが良くないのですね(笑)。

岩谷:そのように解釈しています。

嶺井:なるほど。だから岩谷さんはロングオンリーなんですね。

岩谷:そういうことにしています。メディアに出てしまうと親が見ていたりするので。

嶺井:見かけますよね。

岩谷:なるべく長く、自分が死んだ後もその会社が活躍すると自分の子供たちにいいことが起きるような仕事がいいと思っていますね。

~ オフレコのため割愛 ~

嶺井:成長投資で赤字という会社さんでも、質問していると「いやいや、ザルになっちゃってない?」と。だからこそ評価しづらい視点があるんですね。投資家に評価されているエムスリーさんのコスト意識は非常に高いと言います。ボールペンを1本買いたい社員に対して「それ、どれだけうちの売上・利益が増えるの?」という質問を当たり前のように投げかけるのは、投資家の視点なのですね。

河原さんにぜひ伺いたいのですが、ファンドマネジャーの皆さんと日々向き合う中で、このファンドマネジャーの方は面白い視点だったというエピソードがあればお願いします。

河原:当社の状況でいうと、医療ITという見られ方と人材という見られ方、いろいろな切り口でご覧になる方がいるので、本当にさまざまですね。株式を評価する上では基本的に類似企業との相対感がもちろん重要だと思うのですけれども、そこの類似企業の選定が、こちらから見て適切と感じる際は、ファンドマネジャーさんは当社のビジネスモデルについて調べて頂けているのだと感じます。

嶺井:それは発行体として、類似して見てほしい会社を見ているわけではなくて「あ、確かにそこと近いよな」という会社を選んでいるということですか。

河原:そうですね。ただ究極、僕らが評価するという話ではなく、相対する中で必要な情報を適切な形で提供して期待値を上げすぎない、下げすぎない。そういうことを続けていると、一定程度の信頼が得られるのではないかと思います。

嶺井:ありがとうございます。あと2つテーマがあるので、次に進めます。

■ 振り返っての学びと反省

嶺井:「振り返っての学び・反省」と書かせていただいたのですが、グロース銘柄で逆風がある中で投資家、発行体ともに「あのときにああしておけば良かった」ということがあると思います。これをぜひ聞かせていただきたいと思います。皆さん今考えてくださっている感じですが、岩谷さんからよろしいでしょうか。お願いします。

岩谷:21年12月のクラッシュは、世界でも屈指の下落になっています。あのときの月間のIPOは31件です。また、12月24日は一日で7件です。

嶺井:多いですよね。

岩谷:一日7件は年率換算だと、一年で2,000社ほどのペースになると思います。異常な量です。1カ月で吸収予想金額が2,000億を超えていたと思うんですね。そういうようなことがありました。かつ、業種が寄っています。

時期も3月、12月決算に寄っていて、業種が寄っていて、日にちも寄っていて、駆け込んでいます。これはもったいないと思いますね。小さいプールなので、それをみんなで分け合うというか、水を汲んだらもう一回戻してあげる。利益を出すというのは戻してあげることです。あるいは、株主関係をマーケットに戻すということです。

取ったり入れたりしながら、このプールをみんなで大事にしないといけないところ、ガバッと取ると、普通にクラッシュするということですね。それをやめた方がいいと思いました。仮に同じ1単位のEPSであっても、それを6社で分けてしまうと6分の1になります。

嶺井:出し手のサイズは変わらないわけですからね。

岩谷:そうですね。そういうことはしない方がいい、というのがこのコミュニティでシェアしたい内容です。

嶺井:今日はレイトステージでIPOを目指されている会社さんもいらっしゃっているので、そういう方々としてはできるだけ時期をずらした方がいいということですか。

岩谷:はい。そのための制度設計をこの10月から入れていくので、1日でもいいのでずらすと全然違います。業種も分散したらいいと思います。

杉山さんは業種の分析をしてくださっていますね。

嶺井:今日は上場後のグロース市場におられる方が多いのですが、その方々として「あれはもったいなかったね」というのは、岩谷さんの視点でありますか。例えば「ああいう開示をされていた会社さんはもったいなかった」「自己株買いしたのはもったいなかった」など、何かありますか。

岩谷:今からでも自分のユニークさを思いきり出すといいと思います。上場のときにコンプスと言われすぎて「自分はあれと似ているのではないか」「あのグループだ」という流れのまま、上場した後も「あれと比較して」というのが染みつく。それが結果的に先ほどのハーディングを起こします。同じ1円をみんなで取り合うグループになってしまうのです。

岩谷:今からでも自分は何者でもないんだと。例えば、宇宙といえば上場会社は1個しかないくらいのやり方でいった方がお金は集まるし、保存できます。自分のユニークネスをアピールしてコンプスはないという話に持っていった方がいいと思います。

嶺井:この後、Q&Aの時間を少しでも取ろうと思うのですが、そうすると「どうバリュエーションしてもらうのですか」という疑問が来そうな気がするので、それは後ほどおいておきます。

振り返っての学び・反省を杉山さん、お願いしてもいいでしょうか。

杉山:私が前回のセミナーでしゃべったときに河原さんと同じことを言いました。期待値コントロールは重要だと思っています。淡々とつまらなそうな顔をしているファンドマネジャーやアナリストと皆さんがミーティングをやっているとき、「この人たちは何を考えているのか」と思うこともあると思いますが、意外と人間だったりします。IRやCFOが前のめりすぎて結果がそうでもないとき、ものすごく裏切られた気分になります。

逆もまた然りなのですが、いいときにちょっとでも特需要素があったとしたら、それを真摯に説明する。逆に悪すぎたら特殊に悪いポイントと伝える。多くのスタートアップはいい方に一方向に話しがちです。信用を失うと相手にされなくなってしまう、つまり売買されなくなってしまいます。

私は初めて今年から未上場投資を3件だけですが始めました。学びが非常にあります。当たり前ですが、ファンナンスのプライスとその時期が数年に1カ所で、且つ大概は経営者が選べます。しかし、セカンダリーは9時から15時に基本毎日売買され、値段がマーケットで自由に付きます。当たり前ですが、実は大きく違う。

上場直後の方々が値段をつけにいこうと頑張るのは、未上場時のその1カ所の値付けの時に頑張ってきたロジックだったからなのかなと。上場後は毎日勝手に値段がついてしまうんです。なので、一時的に頑張っていいアピールをしても継続しないのです。

嶺井:未上場のときを引きずらないでほしいということですね。

杉山:少し無理にアピールしても、どこかでそれが剥がれてしまいます。なので実力通りのコメントをし続けることが重要かと思います。逆のパターンもあって、自分たちに実力があるのに、恐縮して開示を少なくして「いやいや、大したことはありませんから」とずっと保守的に言われるのもしんどいですね。まとめますと、上にも下にも投資家が勘違いしていたら修正してあげる。そういうことです。

嶺井:河原さん、ぜひ補足やコメントがあればお願いします。

河原:去年久しぶりに海外IRへ行ったとき、上場してから数年間、会社のその後を見ていると現地の投資家も言っていました。その間に大きな嘘をつかないというか、大きな失望をさせず結果をデリバーし続けるかどうかを見ている、というコメントがとても印象的でした。

彼らはスモールキャップを見ています。スモールキャップと言ってもグローバルでは時価総額50億ドル以下を指すのですが。それがすごく印象的だったので、自分としても改めて気をつけたいと思いました。

嶺井:ありがとうございます。あっという間に、60分のセッションが90分経ちました。ここでセッションを締めようと思います。長い間、話してくださったお三方に拍手をお願いします。

以上