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丸井グループ・マネーフォワードの”ストーリー性があり納得できる”人的資本開示のお手本

この記事は後編です。前半をお読みになっていない方は、ぜひ前編もご覧ください。

前編はこちら(1,900社以上採点した人的資本経営マニアが解説!秀逸な企業の人的資本開示手法とは?

登壇者

石原 千亜希
株式会社マネーフォワード 執行役員CHO

木村 彰子
株式会社丸井グループ IR部IR担当 課長

田中 弦
Unipos株式会社 代表取締役社長CEO

市川 祐子モデレータ
マーケットリバー株式会社 代表取締役

■ 丸井グループの人的資本投資と開示の歴史

市川:次に、木村さん自身から丸井グループについて解説していただきます。

田中:ぜひ、いろいろ教えてください。

市川:最初に丸井さんの概要からお願いします。

木村:簡単に丸井グループの概要です。当社は小売とフィンテックと未来投資という3つのビジネスモデルで成り立っておりまして、三位一体の経営を行っています。店舗は関東を中心に22店舗ありまして、それらにクレジットカードを組み合わせたフィンテックの事業をやっております。

木村:当社の経営のスタイルというか、考え方なのですが、共創経営を大事にしています。「共創=お客さまと共に創る」ということです。今はステークホルダーと定義していまして、そちらの皆さまとも共創の精神でやっている会社でございます。

木村:経営理念は「人の成長=企業の成長」です。CEOである青井が3代目の社長になった2年後の2007年から企業文化の変革に取り組んできたのですが、まず初めに行ったのが経営理念の策定です。私自身「人の成長=企業の成長」と何度も唱えながら育ってきた世代です。経営理念にもあるように、人への意識ということは、根本から観点としてあったと思います。

木村:ご説明したように、2007年から経営理念を設定し、社員が4500人から5000人程度いますので、これまで企業文化を変革するためにメンバーと対話をすることを10年間実施してきました。またグループ公認プロジェクトやイニシアチブ等の取り組みもやっています。それを共創経営レポート(統合報告書)にまとめて記載したのが人的資本の開示の最初だと思います。

今で言う人的資本に関しては決算説明会などでも「人への投資」という言葉で開示もいたしましたが、改めて人にフォーカスして、統合報告書をまとめていました。

2022年からは人的資本経営ということで、前期から今までやってきたことや人材投資のリターン等をまとめて決算説明会等でご説明しました。

木村 彰子(きむら・あきこ)丸井グループIR部IR担当 課長。2009年、丸井グループに入社。有楽町マルイでPBの販売を経て、経理とシステム開発に異動。丸井グループが推進するグループ間職種異動を体験してきた社員の一人。2022年にIR担当へ異動、課長に就任。

木村:なぜこれができるかですけれども、人的資本投資と特に言い始めたのが2022年です。根本には人に投資しましょうという考えがありましたが、ガバナンスでも人材戦略委員会を新たに新設しました。委員長のCHROと岡島社外取締役が委員となって、一緒に人材戦略を立てる委員会が新設されました。また、経営戦略と人材戦略の一致も必要ということで中神社外取締役が委員長となってメインで経営戦略の検討を行っているこの委員会と一緒に連携しながら戦略を立てています。

市川:肝になっている感じがしますね。

木村:そうですね。ガバナンスで経営陣が自らやっている点と、取締役が監督している点が肝だと思っています。

木村:統合報告書の社長メッセージによく表れていると思ったのでスライドを載せました。「経営トップのコミットメント」ということで、統合報告書の社長メッセージもCEOの青井自ら書いていまして、何度も書き直しをすることもあるそうです。

当社の開示資料もそうなのですが、社内外に向けた発信を結構意識しています。社外はもちろん、社内にもメッセージを伝えたいという思いが強くあり、統合報告書のメッセージについても同様です。。社員を含むステークホルダーへ強いメッセージを発信している点も当社の開示では特徴的な点だと思います。

木村:こちらのスライドは統合報告書を作成したときの背景です。このときも当社の財産は人材ということにフォーカスしており、、対話によりステークホルダーの理解を強化することで企業価値をさらに向上させていけるのではないかと思い、そのためのツールとして統合報告書を作りました。

木村:事例として統合報告書のプロジェクトを持ってきているのですが、これ以外にも全体的に当社は部署を横断するのが得意な会社だと思います。人材のグループ間職種変更等もありまして、知り合いが多いので飛び越えやすい体制があると思います。統合報告書だけではなくて、決算開示でも経営企画やIR、財務など部署を飛び越えた開示体制を整えられている点も当社のポイントです。

木村:統合報告書について、最初は苦労したようです。全役員や監査役にも説明をしてから発刊しました。最初に納得感を得られたので、毎回アップデートをして部署横断でプロジェクトもできている点を事例として持ってきました。

木村:当社の経営レポートは投資家との対話を踏まえたものを毎期、反映してアップデートしているので変わり続けていると思います。そういったところも特徴です。対話をして、それを反映していくというスタイルでこれまで開示を行っています。

市川:毎年進化しているのですね。

木村:開示資料を社内外でどのように活用しているかも統合報告書がいい例だと思っています。投資家さんだけではなくて取引先さまやお客様、社員にも配っています。先ほど申し上げたように社員をもステークホルダーとして巻き込んでやっていくことが人的資本の経営を実行する上でポイントだと考えています。

市川:石原さん、聞きたいことがあるのではないかと思うのですが、いかがですか。

石原 千亜希(いしはら・ちあき)2012年に有限責任監査法人トーマツに入所し、2015年に会計士登録。2016年マネーフォワードに入社し、IPO準備等に携わる。上場後は経営企画部長・IR責任者として、海外公募増資、東証一部への市場変更、サステナビリティプロジェクトの立ち上げ等に従事。2021年に人事に主務を移し、同年よりPeople Forward本部 本部長として人事制度改定プロジェクト等を主導している。2023年7月より現職。

石原:ありがとうございます。マネーフォワードは始めたばかりなので、丸井さんをいつも見させていただいているのですが、いろいろな開示をされていますよね。出した後に引っ込めるのは難しいので、出す前にいろいろな議論があると思います。何を出すか・出さないか、出した後にそれがどれくらいインパクトがあるのか、効果測定までいかないかもしれませんが、そういうのは測っていますか。

木村:出すか・出さないか、どのように出すかは、先ほどのプロジェクトではないのですが、CEOも入っていますので、どのように出すかはみんなで対話して決めています。効果測定はいろいろな方法があると思います。社内の影響やKPIで見るとしても、当社のスタイルは、対話してその内容を吸い上げていくのが特徴だと思うので、どういう内容があるのかはいろいろな部署から吸い上げて、それをフィードバックすることがあります。

市川:田中さんにも良ければ、質問をどうぞ。

石原:国内企業の開示だけでなく、海外のものも見られていたと思います。国内と海外でイケている・イケていないのレベル感がどうだったのか、シェアいただけないでしょうか。

田中:悪い言い方で言うと、海外企業は自分たちの企業価値が高まるロジックを作るために人的資本もしくは人的データをうまく使っている印象があります。後でお話ししますが、例えばエンゲージメントサーベイを取っても「我々の社員の何%がこういう人たちなんです」と。

だからこそ、例えば不祥事が起きないみたいな形でやるのですが、日本では「エンゲージメントサーベイは何点でした」と独立しています。単にいい会社っぽく見せるために使うのと、うちの企業価値を高めるために「エンゲージメントサーサーベイはこうなっています」と、ある種賢く使っている感じはしていますね。

市川:そこによりストーリー性を持たせる感じですね。

田中:そうそう。「だから、うちは従業員の気持ちや感情のレベルが高いのです」と説得するコミュニケーションの材料として使うのか、「4点、もしくは5点でした。だからさせてください」と使うのかは結構違いがある感じはしていますね。

市川:田中さんは丸井グループさんに高い評価をされています。。田中さんが丸井グループさんを訪問されたとお聞きしているのですが。

田中:遊びに行ったことはあります。

市川:木村さん、丸井グループさんの社内で、田中さんの開示を調べた結果を見てどういった会話があったのか、感想などがあれば教えてください。

田中:確かに、私のことは社内で何と言われているんですかね。

木村:うちの統合報告書について他社さんから「自由演技がすごいですよね」という話を受けています。自分たちはそれがいいことだと思っているのですが、本当に比較できるのかどうかをお伺いしてみたいと思いますね。独自性が強い統合報告書なので、こういう面で見たら比較できるといったポイントがあるのでしょうか。

田中:ESGデータブックも出されていますよね。いわゆるESGのデータの横比較で十分できると思います。結局、投資家や従業員の方が知りたいのは、どういうストーリーで何を目指しているのか。ここの腹落ち感だと思うんですよね。

自由演技のところは本当に自由でいいと思います。ただ、それがきちんと相手に伝わるのかどうか。ここが伝わるか・伝わらないかは横比較できると思っています。中身は、伝わる報告書だとよく読めばわかると思うのですが、何が伝えたいのかわからない会社さんはまだまだありますよね。

市川:私が注目したのは、丸井さんの各部署の連携ができている点です。それでストーリーができているのではないかと思っています。先週、ESGファンドを長くやられている投資家の方とお話しする機会があったのですが「取材に行って人事と環境部とIRと経営企画の人がバラバラに出てくると、内容としても途切れていて、全然つながっていないので腹落ち感がない」と言っていました。

「経営企画の下にサステナビリティ部があって、その人とIR担当者だけで全部答えてもらえると、単に時間が短くなるだけではなくて、内容としてもまとまりがある。課題解決ができるので業績も良くなることがよく分かっていいんです」と聞きました。丸井さんの場合にはそれが自然にできていると思います。

木村:ありがとうございます。

田中:ちなみに、何人ぐらいの人が関わって統合報告書を制作しているのですか?。

木村:今スライドに出ている部署の人数は関わっているので、10人くらいです。

田中:少ないですよね。10人であのアウトプットを出せるのは本当にすごいと思います。

■ 田中氏から見たマネーフォワードの人的資本開示

市川:社内の色々なことを分かっていることがストーリー作りに重要ではないかという内容を以前、田中さんと対談しました。「経営企画の人が全部書けたらいいよね」と言っていたら、石原さんのことを思い出しました。それが石原さんに来てほしかった一つの理由です。

上場前からずっと経営企画でIRの責任者も兼ねていて、今は人事の責任者になっています。本当にすごいと思っています。田中さんから見てマネーフォワードさんはいかがでしょうか。お願いします。

田中:対面で「すごい」と言うと、恥ずかしいものですね。Twitterで「すごい」と言うのは楽なのですが……(笑)。

市川:心から本当にすごいと思っていますよ。

田中:実は丸井グループさんとマネーフォワードさんのエンゲージメントサーベイが、ほとんど同じようなスタイルで開示されていて面白いと思いました。スライドの左側がマネーフォワードさんで、右側が丸井さんです。

よく見るとすべて社員が主語なんですよ。「社員の何%の人たちはこう思っています」とか。5点満点中4.1や4.2となっていると思います。要は、確かに10%くらいの人たちはまだついてきていないのかもしれないけれど、マジョリティの人たちは企業が掲げる戦略、もしくは達成したいビジョン・ミッションに対して共感している率が多いということだと思うんですね。

あとマルイさんの開示で面白いと思ったのは、10年前のデータと比較している点です。例えば、一番上のものだと46%から80%となっています。10年前と比べて明らかに会社でコミットしている人たちが増えている。要は、伸びしろが極大化しているということです。

事業戦略を実行するのも人です。「こちらの方が実行しやすくなっていますよね」ということはコミュニケーションできると思っています。僕は今エンゲージメントサーベイに関して、こういった開示の仕方、こういった質問の仕方がコミュニケーション上で一番やりやすいと思っています。

田中:ここまで具体的な数字目標を出すのはすごいとしか言いようがないと思います。実は今回、法改正によって男女賃金格差が義務化されたのですが、残念ながら数字を出しているだけなんですね。例えば「8%の女性管理職がいます。以上」となっていて、それが問題なのか、問題ではないのかはっきりした方がいいと思うんですよ。

例えば、ハウスメーカーさんだと、そもそも理系の女性がすごく少ないので、そういう数字になってしまいますと。それより、少ない女性たちが長く務められる環境を実現したいので女性管理職比率は少なくていいという会社さんもありました。

マネーフォワードさんを見ていただくと、大きく2つの開示をしています。まず上段では「マイノリティグループである女性の意思決定者を増やすことが大事だ」と。その次に「同一職種間における平均グレードの男女差が今は0.6ポイントあり、それを解消していきます」とあります。

さらにその下。これは面白くて、すごく秀逸だと思うのですが「管理職が今よりも大きな責任を負う業務をオファーされたらやってみたいと思う」という設問は、まさに社員がどう思うかになっていると思います。今は差があるという結果になっていて、これを解消することができれば、当然ながら女性管理職比率は増えていく、もしくは挑戦したい人が増えていくというお話です。

実態のデータを取っていて、それをトラックすることがKPIになっています。それをトラックして良くしていけば、間違いなく女性の管理職の比率が高まり、挑戦する人はさらに増え、企業価値が高まるだろうというところまでつながっていて秀逸です。ここまで開示されている企業は見たことがありません。

市川:すごくよく考えられていると思います。

■ マネーフォワードの人的資本投資と開示

市川:それでは、石原さんご自身からご説明をお願いします。

石原:人的資本開示という言葉が最近出てきて、その前はサステナビリティやESGという言葉が多かったと思います。マネーフォワードの場合は2017年にマザーズに上場しまして、そこから数年間は正直そんなことを考えている余裕もなく、とにかく目の前のことを頑張っていたという感じでした。

2020年、会社の規模も一定大きくなってきて、時価総額も上がってきたのと、投資家からサステナビリティやESGへの関心が高まってきたので、どうするかという話が本格的に出てきました。リソースも限られている中で、何から始めればいいのかすごく迷いまして、当時市川さんにご相談したと思うんですよ。

市川:そうですね。ある日「統合報告書を作った方がいいですか」という質問が来て、「時間がかかるから少しずつやった方がいいよ」と答えたのですが、あっという間に作っていました(笑)。

石原:「何から始めたらいいですか」と先輩方に教えを請うたときに、サステナビリティのマテリアリティをまず作るべきだと教えていただいて作ったのが、スライドの①~③です。日本企業の場合、マテリアリティ自体の項目が多い企業が多いのですが、どうせ作るのであれば社員のみんなも覚えられるようにしたいということで、3つに絞って作りました。

個人的な話なのですが、私は2020年にちょうど育休から戻ってきました。当時マネーフォワードでは管理職で育休から戻ってきた女性がいなかったので、私が初めてでした。これを機に会社のダイバーシティの活動をより推進していきたい気持ちがありまして、当時は人事ではなく、経営企画の立場でこの策定に携わっていたのですが、今で言う人的資本的なもの、D&Iをより推進していくという内容を盛り込みたいと思って強い思いで「Talent Forward」と入れさせてもらいました。

石原:その翌年、2021年から統合報告書を開示し始めたのですが、先輩方に「統合報告書の作成はやった方がいいですか?」と相談したときに「プライムに行くのであれば、パッシブの投資家もわりと増えるのでやった方がいいと思いますよ」というお話をいただきました。

市川:「9カ月から1年くらいは見た方がいいんじゃない?」と(制作前に)言ったのですが、5カ月で仕上げていましたね(笑)。

石原:「9か月もかかるんですね・・・なるほど」と言いながら、5カ月くらいでリリースをしました。スライドにQRコードが貼ってあるのですが、1年目の統合報告書の裏側を綴ったnoteを出しているので、ぜひご覧ください。毎年出しているのですが、どういう意図で出していくかなど、裏側をnoteでも発信をしています。

初年度は本当に初回という感じだったので、まずはどちらかというと、事業のことをきちんと理解してもらえることを主眼に置いていました。

当社は創業から11年、12年くらいなのですが、BtoBもあればBtoCもあります。BtoBの中にもいろいろな事業があって「なぜ、こんなにたくさんの事業をやっているんだ」と投資家さんから聞かれることが多かったので、なぜそれぞれの事業をやっているのか。つまり、いろいろやっていることが最終的にシナジーにつながるという話をお伝えしました。

それを叶えるために人的資本が揃っているという話も大事だと思ったので、我々はMVVCと呼んでいるのですけれども、ミッション・ビジョン・バリューズ・カルチャーをどのように社内で捉えているかを感じてもらえる工夫をしました。

スライドに出ている切り抜きに「Teamworkでサービスを前へ」と書いてあるのですが、Teamworkは私たちが大事にしているカルチャーの1つです。カルチャーが日常の業務でどのように溶け込んでいるかを記載しています。

石原:翌年は東証一部に上場して、社内でもESGのデータをどう開示するのかという分析も少しずつ進んできた中で、サステナビリティに関する考え方や取り組みにより重きを置いた訴求をしておりました。

私はこのタイミングで人事に移っているのですけれども、並行して人事制度を大きく変えました。給与水準が基本的には上がるように変えて、頑張った人がより報われる。チャレンジをより推奨できるような人事制度に変えていたので、それが分かるように書いた感じですね。

スライドの左側に書いてあるESGデータ集の主な項目も出しています。ここは割と規定演技的なところも出しつつ、独自なところとして1on1研修はすごく大事だと思っているので「参加率が高いですよ」と。先ほど田中さんからご紹介のあったサーベイの参加率。それはマストとは言っていないのですけれども、かなり参加率が高い点もお伝えしています。

石原:3年目の今年は、さらに一歩サステナビリティ関連の指標を出しまして、こちらのスライドは先ほど田中さんが出していただいたものになりますね。Talent Forwardの中の従業員エンゲージメントの各項目です。

「メンバーの可能性を引き出す多様な成長機会の創出を図る指標」と書いてあるのですが、3つのマテリアリティの中のTalent Forwardという人に関する項目のさらに小項目として3つあるんですね。そこと紐づいたサーベイの内容をそれぞれ出した形になります。

市川:わかりやすいですね。

石原:マテリアリティと紐づいた開示をしています。

石原:こちらのスライドは、田中さんからおっしゃっていただいた部分です。CG報告書で開示しているので、目立たないところで開示をしているのですが。

市川:コーポレートガバナンス報告書ですね?

石原:そうです。コーポレートガバナンス報告書の中で多様性の確保についての測定可能な目標が求められていて、今年から開示を拡充しています。

DEIは非常に幅広いテーマですが、当社の今のフェーズでは特にグローバルや女性の活躍というテーマが重要です。そこに対するKPIと現状はどうなのかを開示しました。

男女のグレード(等級)差のところは、社内的に時間をかけて議論をしまして。管理職の比率を出す会社さんが多いと思うのですが、あえて管理職比率ではなくて平均グレードの差という形にしました。なぜかというと、管理職の比率だと有限のポストなので、どうしても男女で敵対する構図を生みがちなんですよね。

石原:弊社の場合、グレードは絶対評価でやっていますので、敵対のような構図は生まれません。本質的には、管理職というポストが重要なのではなく、グレードが適切に上がって、会社により大きく貢献頂くことが重要なことだと思っているので、そこをKPIとしてセットしました。

あと、プロノバの岡島さんに弊社の社外取締役もやっていただいているのですが「DEIの指標を設定するときは、必ず最終的な成果の指標とその前のプロセス指標を入れた方がいい」という話をよく伺っていたので、プロセス指標としてまずは手をあげるところ、より大きな責任のある業務をやってみたいというサーベイ項目を入れました。

市川:なるほど。これはいいですね。

田中:これは仮説の話なんですよね? オファーされたらやってみたいという意欲の話だから。

石原:そうです。

市川:(責任の大きな仕事を)やりたくない人には男性もいるし、女性は傾向として多いので、そもそもオファーされたらやってみたいという意欲の比率を上げるということなんですね。

石原:はい。

田中:全ての日本企業は、このプロセス指標を取り入れると良いと思います。

市川:私もそう思いますね。

田中:要は、ポストは有限でタイミングも絶対にあると思うので、もしオファーされたらという意欲を温めておく。「いつでも温まっています」という指標だと思います。

石原:ちなみに、社内ではこの開示以前はグレードや賃金の差異については公になっていなかったので、丁寧にメンバー向けの説明会を行いました。そもそもギャップがあると思っていなかったという方もいらっしゃったので、差異があるということ自体はネガティブな要素ではあるのですが、会社が前向きに向き合ってくれている点はポジティブなフィードバックもいただきました。

市川:木村さんから見て、どうですか。

木村:ここまで開示されているということは、社内での取り組みもされていないとできないと思います。先ほどサーベイの参加率がすごく高いという話もありましたが、どういう社内への巻き込みだったり、働きかけをしているのかお伺いしたいと思いました。

石原:そもそも、そういうところに関心の高い人が多いと思っています。「義務なのでやってください」という形にすると参加してもらいづらいので、どういうメリットがあるのか。回答することのメリットだったり、しっかりそれが改善されていることがトラッキングできるものをできる限り提示するよう気をつけていますね。

■ 開示のための開示にしない

市川:残念ながら時間となりますので、最後に開示のための開示にしないということを田中さんから説明していただいて終わりにしたいと思います。

田中:人的資本の開示だけではなくて経営をどうするかというときに、スライドの穴埋め問題を経済陣で考えてみましょうという話です。要は、何か必ず達成目標があるわけですよね。それに対して、まず今持っている現有能力とはどういうものなのか。それに特徴があれば「うちの会社の企業価値はこれだけ上がっていくんです」と、原泉のロジックに使えばいいと思います。

一方で、まだ足りない、もしくは伸びしろがある。例えば、女性の方たちがこれだけ活躍してくれたら、実はこんなにいい作用があるというのがあれば、それを出すために課題は伸びしろなので投資を中心としていきますと。これが腹落ちをしていないまま、バラバラに担当ごとに開示を始めると、おそらくよくわからない話になってしまうと思います。これをまずセットするのは重要です。

細かい数字をどうするのかよりも、ここから紐解くことをしないと人的資本経営にはならないですよね。開示はできるかもしれませんが。

市川:そうですよね。開示はできるかもしれないですが、経営にはならないですよね。

田中:はい。一番下に書いたとおり「それで当社の事業戦略を実行・実現する蓋然性が高くなると社内にも社外にも説明できますか」と問うてみる。この穴埋めをやっていただくのがいいと思っています。

市川:残念ながらお時間が来てしまいまして、これにてセッション3を終わりたいと思います。石原さん、木村さん、田中さん、本当にありがとうございます。参考になることがたくさんありましたので、皆さん、少しでもこの2社にキャッチアップしていただければと思います。よろしくお願いします。

以上