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1,900社以上採点した人的資本経営マニアが解説!秀逸な企業の人的資本開示手法とは?
2023年8月1日にグロース・キャピタル株式会社主催で行われた、Growth CFO Summit Vol.9。セッション3のテーマは「人的資本開示の最前線」です。モデレータは『ESG投資で激変!2030年会社員の未来』著者のマーケットリバー市川代表を迎え、マネーフォワードの石原CHO、丸井グループの木村IR担当課長、Uniposの田中CEOの4名で実際の開示資料を見ながら高く評価されているポイントや人的資本経営の未来についてディスカッションを行いました。
登壇者
■ セッション3「人的資本開示の最前線」見どころ
嶺井政人(以下、嶺井):ここからは「人的資本開示の最前線」を行ってまいります。モデレータはマーケットリバーの市川さんに務めていただきます。市川さん、よろしくお願いします。
市川祐子氏(以下、市川):よろしくお願いします。
嶺井:この1年で人的資本開示について話題に上がることが増えたと思います。ぜひ本セッションの見どころを聞かせてください。
市川:今年の6月から有報での人的資本投資開示の義務化が始まりました。人的資本開示をすべて見ている Uniposの社長の田中さん、そして人的資本開示の王である丸井グループのIRから木村さん、成長企業カテゴリーで急速にキャッチアップしているマネーフォワードの石原さん、この3人で楽しく人的資本経営の未来について話したいと思います。
嶺井:豪華メンバーですよね。
市川:この人選をした私は偉いと思っています(笑)。
嶺井:間違いないですね。本当にそうだと思います。本セッションは市川さんに人選をお願いしていて、市川さんが「この人に深掘りして聞きたい!」という方に出ていただいています。
市川:私自身、楽しみです。
嶺井:いいですね。それでは、よろしくお願いします。
石原千亜希氏(以下、石原):マネーフォワードでCHOをしております、石原と申します。私は公認会計士をキャリアのスタートとしておりまして、2016年にマネーフォワードの経営企画に入社をしました。今の社員数は2000人ですが、当時は200人くらいで上場前というフェーズでした。そこから上場準備を経て、上場後はIR責任者と経営企画部長を務めておりました。
2021年に当社が現プライムに上場しまして、その後から人事に移って、先月からCHOをやらせていただいております。よろしくお願いします。
市川:執行役員にも就任されたとお聞きしました。おめでとうございます。
石原:ありがとうございます。
市川:注目ポイントは、IRと人事の両方を担当されている点です。次は木村さん、お願いします。
木村彰子氏(以下、木村):丸井グループIR部IR担当 課長をしております、木村と申します。私は2009年に丸井グループに入社しまして、まず有楽町マルイの方でPBの販売を経て、経理とシステム開発に異動しました。当社が推進していますグループ間職種異動を体験してきた社員の一人でございます。
「人的資本開示の王」と言っていただいて、大変ありがたいです。後でお話もあると思うのですけれども、特にIRで評価をいただくことが多くて、プレッシャーの多い中で日々開示の充実について考えながらIRを行っております。部署横断でIRにも取り組んでいますので、その辺もご紹介できたらと思っております。よろしくお願いいたします。
市川:これまでのGrowth CFO Summitでは、なかなか登壇する機会のなかった企業さんなので、いろいろ聞きたいと思っています。次は田中さん、お願いいたします。
田中弦氏(以下、田中):ざっくりすぎるかもしれないのですが、僕はいろいろやってきました。今はUniposという会社なのですが、もともとは広告代理業で上場しています。上場企業でピボットするのは大変です。
人的資本の開示の話が、なぜこんなに盛り上がったかというと、インターネットやブロードバンドが最初に来た時もそうでした。世の中の法律が変わるタイミングで、常に自分なりに何かにコミットすることをやっていて、世の中が少し変わるのをずっと経験してきました。一番興味のある人的資本の分野でどうも法律が変わるらしいぞと。誰も読んだことがないので、全部読んでしまおうというのが始めたきっかけです。
今日は人的資本開示の王と、男女の格差についてKPIをしっかり持たれていて、今後どのようにしていくのかというのが僕が見る限り一番優れているマネーフォワードさんのお話を聞けるので、すごく楽しみです。よろしくお願いします。
市川:モデレータは市川でございます。楽天とNECグループでIRをやっていました。このGrowth Capital のグロースパートナー、それから一橋の財務リーダーシッププログラムの講師をしておりまして、そこで木村さんともお会いしました。
去年『ESG投資で激変!2030年会社員の未来』という本を出したのですが、去年よりも今年の方が、まさに2030年に向けて会社員の未来が変わる感じになってきたと感じています。このタイトルをつけた編集の方は鋭いですよね。
■ 本日のテーマ
市川:それでは今日のテーマのおさらいです。そもそも、なぜ人的資本開示の話が出たかというと、上場企業にも未上場企業にも関係があるのです。有価証券報告書(有報)で人的資本についての開示が義務化されました。上場するときには有価証券届出書(Ⅰの部)は有報とほぼ同じ内容を書くからです。
3月期決算の会社が2300社ぐらいあって、それらの会社は開示を始めています。まずは「従業員の状況」について。今までは単体の人数と年収ぐらいだったのですが、女性管理職比率、それから男女賃金差異、男性育休取得比率が義務になりました。女性活躍推進法の範囲と同じなので、100人や300人の従業員がいるところが義務ではあるのですけれども、ほぼすべての会社が出さないといけないものです。
それから「サステナビリティの取組」も義務化されました。気候変動対応なども企業によっては重要性に応じて書いているのですが、中でも人材育成方針、社内環境整備方針、それから人的資本関連の指標・目標。これらは全企業が必須になりました。「これはやらないといけない」ということが今年に入って起こっています。
市川:田中さんが、まず1月に682社を読みまして。
田中:1月は957社です。
市川:1月は900社で、3月決算の6月分は1,000社以上でしたかね。
田中:先ほど確認したら1,950社ぐらい見ていました。3週間前は680社で、週末を過ごすたびに増えていく数字です。
市川:そのうち、私も130〜150くらい見ました。今の日本がどういう状況になっているかということを丸井さん、マネーフォワードさんの順番でお聞きしたいと思います。途中でパネリスト同士の質問もどんどんやっていきたいと思います。
もう一つの前提です。なぜそもそも義務化になったのかという点ですが、日本を変えるのは人材投資だと。これはマーケットからも、株式市場からも言われています。
市川:このスライドは日本の機関投資家向けに生命保険協会がアンケートを行ったもので「中長期の投資財務戦略において重視すべきと考えるものをお答えください」という問いです。青が投資家でグレーが企業なのですが、投資家は人材投資が一番と言っています。人材とITと研究開発の3つですが、どれも人です。人、何なら無形の資産に投資しろと言っているのですが、企業は設備投資が何年も連続して一番なのです。
企業は「物」と言っていますが、そうではないよと。投資家から見たら「人」だと。これは国内の結果ですが、海外からも言われていまして、私の知っている人だとブラックロック、世界最大の運用機関の日本のESGヘッドの方も言っています。「日本の問題はいろいろエンゲージするけれど、人と組織だよ。そこが変わらないと資本効率もROEも上がらない」ということで、人的資本開示が義務化になったと受け止めております。
■ 人的資本開示のフレームワークと学び
市川:前置きが長くなりましたが、田中さん、人的資本開示を全部見た結果、学びがあったと思いますので、そのシェアをお願いいたします。
田中:こちらのスライドは1月に統合報告書ベースで957社を見たときに作ったフレームワークです。たくさん見ていると、非常にわかりやすいものと、何のことを言っているのかよくわからないものとに二極化します。
悪いものは③インプットだけが書いてあるものです。「こういうことをやっています」とは書いてあるのですが、どういうアウトプットがあるのか、もしくは、どういう課題があるのかが書かれていません。理想の姿に追いつくためには必ず課題があると思うので「どういう課題をつぶすために、こういうインプットをしています」と明らかにする。そうすることでアウトプットが出てくるという順番になると思います。
田中:伊藤レポートを見ると、As-Is/To-beという形で課題をつぶしていくために人的資本投資をしてくださいと書かれていたと思います。あれになぞらえつつ、もう少し広げてみたのがこのフレームワークです。
特に課題のところで「田中さん、ネガティブなことを言わないといけないのですか」とよく聞かれるのですが、先ほどの市川さんの図がまさにそうだと思っています。要は、設備投資をして回収できるものと無形である人的資本に投資をして得られるもの、どちらが伸びしろやリターンが大きいかというと、そろそろ設備投資ではなくて人だと考えています。
例えば「何のために設備投資をするのですか」と絶対に聞かれると思います。皆さんは今まで「こういう生産効率を高めるためです」と答えてきたと思っているので、人についても課題ベースでコミュニケーションしてあげるとリターンがわかりやすいと思いました。こういうのが望ましいと思って作ったフレームワークです。
市川:パーパスから始まって理想と現実のギャップがあってインプット、アウトプット、アウトカムなのに、真ん中(インプット)しかない会社がまだ多いということですね。
田中:そうです。例えば、社員食堂を作りましたと。別にそれでもいいのですが、社員食堂を作った結果、例えば、みんながすごく仲良くなって、相互の理解が進むというアウトカムまで見られればいいと思います。しかし、社員食堂を作ったこと自体は単なる設備の投資なので、人的資本とはあまり関係がなかったりしますよね。そういう類のものだと思っています。ここは③に偏っていると思っていました。今回新しく調べてみたのですが、やはり③に偏っています。これは明らかですね。
田中:右側(④・⑤)に行くことが答えだと思っています。③から④・⑤にどうやってシフトするのかというのが重要だと1月ぐらいに申し上げました。
市川:「アウトプット・アウトカムまで行きましょう」と言っていますよね。
田中:こちらのスライドは最新版で、2週間ぐらい前に682社を見ていた時の状況です。結論から申し上げると、1点・2点の企業は人的資本開示にそれほど積極的ではない。要は③だけか、もしくは女性管理職比率と男女賃金格差、いわゆる女活法関係のものだけです。
本来は社内環境の整備や人材育成方針に関して指標と目標を開示して、どういう課題を解決するか明らかにしないといけないはずなのですが、残念ながら1点・2点は明示していない人たちです。その方たちが7割ぐらいですね。
これを見て僕がIR担当だったら「みんなそんなに追いついていないんだったら、今のうちにやっちゃった方が差別化できるので先行した方がいいよね」と考えます。そのようになるといいなと思います。
市川:私も点数をつけていて、①と②が多くありました。課題と指標が合っていない会社がまだまだ多いですね。
田中:市川さんは最初に小売を担当してもらいました。小売は10年、20年経つと明らかに人手不足になりますよね。絶対に人的資本上の投資をしておかないといけません。女性管理職比率しか書いてないと、何の投資をするのだろうかという話になりがちです。
市川:そうなんですよね。外食産業であれば課題に接客スキルと書かれているのですが、目標を見ると女性管理職比率しかないところがありましたですね。
田中:もったいないですよね。
市川:中にはいいものもありました。いいものがあると、レアキャラを発見したとおっしゃっていますよね。
田中:今レアキャラが10社なので、全体の1%くらいですね。
■ 田中氏から見た丸井グループの人的資本開示の魅力
市川:レアキャラの一つである丸井グループさんについて、いかがでしょうか。
田中:今、私はひたすら丸井さんを褒めまくっている人みたいになっていますよね。
田中:後ほど詳細を解説していただくとして。もともと統合報告書や別途IRサイトで人材資本経営について、ずっと開示されていました。要は、あのすごさがもう一度来ると思っていたら、有報で進化していたのです。びっくりしました。
市川:毎年進化していますよね。
田中:そうそう。先ほど木村さんの自己紹介でグループ各社間で何度か異動してきたと話をされました。要は、どれほど自立性があるかをウォッチされているのだと思います。今までの開示では「自ら手をあげ参画する社員割合」が85%だったのですが、スライドのデータを見ていただくと、失敗も合わせて5,000回挑戦することを指標にしています。「変えてきたな」と思ったところですね。
田中:衝撃的だったのは5年間で320億円を投資して、560億円を回収するということです。これは新規事業でどれぐらい回収するかという話なのでしょうが、実は先日スライドの右側をTwitterでつぶやいたら50万インプレッションくらい出てしまいました。「みんな本当にそんな興味あるのかな?」と一瞬思ったのですが(笑)。
小売業など店舗を持っていらっしゃる会社さんは、まず店舗に投資をします。そこで多くの人を集めて回収しますと。オペレーション・エクセレンスが重要で比較的人件費や人材投資はそこまで重要視していないイメージがあったのですが、丸井さんの開示を見てみると、人に投資をした方が投資効率はいい経営ができるとはっきり書かれていました。すごいと思いました。
市川:スライドの右下、人的資本投資の不等号のところですよね。
田中:はい。正直、小売業の方はびっくりしたと思うんですよ。
市川:リターンが人的資本投資では12.7%で、設備や店舗では10%程度です。まさに、人に投資せよという感じですよね。
田中:いわゆる小売業のセオリーどおりに設備投資をするという勝利の方程式から、人に投資することに移り変わろうとしているタイミングに出されたと感じています。
市川:ビジネスモデルも普通の小売とは違いますよね。それもうまく表現できていると思います。
田中:これが新しく出ていたので「おお!」と思いましたね。