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延期を余儀なくされた波乱のIPO。成長企業が乗り越えたその戦略とは?

この記事は後編です。前編をまだお読みになっていない方はぜひ前編もご覧ください。

■ IPO前の機関投資家との接点

寺田:機関投資家とのIPO前の接点はいかがだったでしょうか。

3社それぞれ、どのくらい前から機関投資家との接点をされていて、どのように関係性を構築されてきたのか、まずベースフードの事例からお願いします。

山本:カンファレンスへの参加とIMをやりましたね。最初は上場の2年半前ぐらいで、IMはその1年後ぐらい。あとはプレIPOラウンドをやる時にそのIMで会った方を中心にお声掛けさせていただいて、1on1でコミュニケーションを取らせていただきました。結果的には、そこで投資には至らなかったのですが、またロードショーでもお話しさせていただきました。

寺田:ベースフードさんは急成長されていますよね。IPOの2年半前は売り上げ規模だとどのくらいですか。

山本:年商15億くらいですね。

寺田:機関投資家とのコミュニケーションを事前にやった方がいいというプラクティスが界隈の中で蓄積されている一方で、なかなかそこに至らないスタートアップは、まだちょっと早いというか、機関投資家に会うには規模が小さすぎるのではないかという心理的なハードルもありそうな気がするのですが、当時はいかがでしたか。

山本:金額的にはまだまだ小さいだろうとは思っていたのですが、その1年後、2年後までの成長がある程度は見えていましたし、自信があったので、このタイミングで機関投資家とお会いするには足りると思っていました。あと、マーケットの状況は良かったですね。会ってくれる投資家がたくさんいらっしゃいました。

大川:投資家さんは、どの業種ですか?フード系なのか、ソフトウェア系なのか。

山本:両方いましたね。新しい分野というソフトウェア系、IT系もいましたし、フード系もいました。ただその時は、フード系の数はそこまで多くはなかったです。

寺田:ソフトウェア系を対象としている投資家がいらっしゃった?

山本:投資先を見ているとソフトウェア系ですね。

寺田:ハイグロースなので、ということでしょうか。AnyMindさんはいかがですか。

大川:IMは2022年3月のIPOの1年前ぐらいに1回目をやっています。

寺田:結果的には2年から2年半前ぐらいなんですね。

大川:そうですね。IMは複数回やっており、ロードショーも3回やっているので、5回以上あっている人もいました。

2022年は年初に事業計画を出して、ミーティングの度に事業状況を聞いて、進捗確認を何度もやっているので当社について非常に理解いただいていたという感じでした。

寺田:最初のIMは、証券会社経由で設定していたのか、それとも直接もあったのでしょうか。

大川:カンファレンス等で何社か接点はあったのですけれども、本当にターゲティングしたIMは証券会社経由で行いました。また、マーケット環境がどんどん変わっていったので、特に海外の投資家さんに関しては、徐々にターゲティングが変わっていく中で、2021年に会った人たちと2023年ではお会いする方も少し違ったと思います。

寺田:最初の方にお会いされていたけれど結果的に投資に到らなかった方々と、後からお会いされてディールに参加された方々は、それぞれどういう属性の投資家だったのですか。

大川:属性として変わるわけではないと思うのですが、特に2022年3月のタイミングとその1年前だと、海外投資家さんを含めて日本やグロース銘柄に対しての一般的な投資スタンスが異なるケースも多く、2022年3月のタイミングでは、新規投資を積極的にされていない方々も多かったので、かなり抜けたようなイメージです。2022年はグロース上場案件に積極的に参加できるタイミングではないという雰囲気もありました。

寺田:ispaceさんはある種、投資家を選ぶ会社だと思うのですが、いかがでしょうか。

野﨑:IMはしっかりやったのですが、上場の4年くらい前から証券会社さん主催のカンファレンスは機会があればとにかく出ていました。個人的にも海外へ行くとき、そこで「何件かでも無理やり紹介してくれないか」ということはやったんですよね。

先ほど恥ずかしいという話がありましたが、当社も特に理解されにくい事業形態なので、投資家からよく言われたのは、特に日本の企業のIPOで「ある日突然IPOに来ました。出てしまいました」で、IPO検討するにもなかなか時間がなくて分からなくて逃してしまうことが多いです。「早めに来てくれるのはありがたい」という声の方が多かったと思いますね。

野﨑:今でも難しいと思ったのは結局、投資家もたくさんいらっしゃるじゃないですか。もちろんターゲティングもするのですが、当社の場合はヘッジファンドが最後に多く入りました。こういう業態なのでロングの方に入ってほしいんですね。最後に、IPOの時に本当にプッシュしてくれたロングの人には、実は1回も会っていません。会えなかったんですよね。

自分たちのターゲティングでは、なかなか会えなくて。自分たちでもう少し分かっていれば、あの手この手を使って、そういう人たちとの関係構築をもっとやったと思います。そういうことが最後に起きたというのがあって、十分ではなかったと思いますね。

寺田:ロードショーではいかがですか。

野﨑:最後、ロードショーだけですね。ただ、その方は宇宙業界に対する知見があったので、ある程度感覚があったのだと思います。本人からすれば、その1回で十分だったのかもしれません。そういう方は他にも本当はいたはずだと思っていて。そこをもっと取れていれば、もう少し違う影響があったかも……と考えています。

回数はやったけれども、思うように自分たちが欲しいターゲティングができたかというと、そこまで意識がいっていなかったのも事実ですし、振り返るとできていなかったと思いますね。

寺田:海外のディープテックや宇宙系に投資されている投資家に対して、証券会社からはアクセスがあったのでしょうか。

野﨑:入れても取ってくれません。証券会社の方には申し訳ないですが、今のIMで証券会社さんという機能を通す。我々としてはお願いしないといけない、頼らないといけないところと。

一方では正直、限界も感じるところだと思っていて。例えば、宇宙など新しいエリアに投資する人が誰なのか、証券会社さんもターゲティングするのは本当に難しいと思うんですよね。必ずしもそこを全部把握できているわけではないと感じましたね。

寺田:結果的にヘッジファンドが多く入ったのでしょうか。

野﨑:そうですね。株価の変動も大きかったのですが、ヘッジの方々にたくさん入っていただきましたし。ただ、ドリブンするので、もう少しロングの方々が欲しかったというのは本音ですね。

山本:ispaceさんほどではないと思うのですが、うちもターゲティングがすごく難しかったと思っています。どんな投資家がうちに投資してくれるのかという点はロードショーやIMという話の以前に、VCラウンドから苦労はありました。

■ 未上場時のバリュエーションと公募の折り合い

寺田:今の話とも関連するのですけれども、未上場時のバリュエーションと公募価格の折り合いをベースフードさん、どうつけられましたか。そもそも公募価格は直前のラウンドよりも高かったでしょうか?

山本:少し低かったです。

寺田:直前はいくらのラウンドでしたか。

山本:直前は500弱くらいです。最後に入っていただいた投資家に「これでいくのでお願いします」という話で折り合いました。公募価格については、ストーリー自体はずっと変えていなかったというか「こういうエクイティストーリーで、どのコンプスを持ってきて」という話はほぼ変わっていません。

ただ、コンプスの株価がどんどん下がっていった状況の中で、最後は我々の公募の価格で結着がつきました。こちら側としては最後にストーリーを通して、コンプスの数値自体はどうしようもないことなので「これでいかせてください」という形でお願いしました。

寺田:一部売り出しもされていたと思うのですが、売り出さないと流動性を担保できなかったのですか。それとも株主の意向で売り出しをされたのですか。

山本:両方ですね。我々としても、そういう状況の中でもできるだけサイズを大きくしたかったという意図がありました。

野﨑:他の投資家さんから「俺も売り出せ」と言われませんでしたか。

山本:そこは持分で按分して「これでいかせてください」というご説明をしました。

寺田:現実問題、VCだとIPOの時の売り出しに応じないという選択肢がある一方で、半年や1年持ってしまうと、LPへの説明が大変だったり、ガイドラインから逸脱してきたりということもあるので、IPOの公募価格やタイミングは非常に重要だと思います。会社側として「これでいきます」という意志を持って進められたのでしょうか。

山本:基本的に状況は全部共有していて、最初にこういう状況でいきますと説明しました。ただマーケットが崩れている状況だったのでリスクとそれが顕在化したときにはこういう形でいかせてくださいというのは結構前から言っていましたね。

寺田:いくつかシナリオを事前に提示しておくということですかね。

山本:そうですね。

寺田:確かに、それだとスムーズにいきそうですよね。ispaceさんはいかがでしょうか。

野﨑:折り合いつけられたかどうかも正直わからないのですが。

寺田:売り出しなしですもんね。

野﨑:売り出しなしです。あくまで公募だけですので、新株だけです。当社の場合は新しくお金を取ることが大前提で、そのためにはとにかく出ないと、その先のグローバルなキャピタルマーケットにアクセスが取れません。それが延期で長引いて、マーケットがいつ回復するかわからない中で、そのことの方がリスクだったというのは共通認識だったと思うんですよね。長い目でそこは考えてもらったというのと。

もう一つは、株主の方に丁寧な話をすることに尽きます。未上場のバリュエーション、特に当社のような場合は100%、200%当社を信じている方だけがコンセンサスじゃないですか。それが当たり前ですが、不特定多数のマーケットに出て、しかも2022年年初のクラッシュを見て、総体的な世界に入っていく中で、それでも同じバリュエーションで説明を作っていくのは難しいことだったと思うので、そこは出るための値としてご理解いただきました。

寺田:現実問題、未上場のままでラウンドを重ねていくのはハードルが高かったと感じていますか。

野﨑:最近、当社以外のケースでも大型のプレIPOというか未上場のラウンドはありますので、不可能だとは思わないんですよね。ただ当社は数百億の資金調達をしていきたいという中でいうと、アメリカだとベンチャーキャピタルがドカンと入れてできちゃいますよね。

日本でそれをやるのは、そんなに簡単ではありません。それをやろうとすると、例えばストラテジックな方々からかなり大型のものを入れていただかないといけない。一つの選択肢ですが、当社の場合であれば、もう少しグローバルな投資家にアクセスする方がいいなと思ったということです。

寺田:AnyMindさんの場合は最初の上場承認の直前のプライベートラウンドと再度の上場承認前のプレIPOラウンド、及び最終的な公募価格といろいろな価格があると思うのですが、どういう推移だったのでしょうか。

大川:IPO前の資金調達が2020年で、公募価格1000円に対して半分くらいの水準でした。2022年3月は1150円の想定価格で、プレIPOは850円前後でした。12月も2023年3月も同じ1000円を公募価格としています。

寺田:結果的には順当に上がっているということですね。

寺田:主幹事との折衝という話で、先ほどいろいろあったのですけれども。特に証券会社と意見が分かれた際、そこをどうすり合わせてきたのか。プライシングやそれ以外の部分についても、いかがでしたか。

大川:バリュエーションは2社とも目線がずれたことは1回もありませんでした。上場前のタイミングからマーケット環境にあわせて水準を議論するなどかなりスムーズでした。事業の理解も含めてお互いに信頼関係はあったと思います。

関係者で意見が異なることはよくあると思います。2022年3月は、ローンチ後にウクライナ信仰が起き、マーケット環境も激変したので、そのままいくのかどうかという点で意見は割れました。
主幹事の1社は「そのまま進められる。」と言って、もう一社は「やめた方がいい。」と言っていました。当然、株主の中にもどちらの意見もありました。

主幹事が違う意見を持っているので、株主との議論も含めて丁寧に行いました。

寺田:共同主幹事は、基本的にはメリットが大きいと私は強く思っているのですが、一方で共同主幹事同士の意見が分かれた際に調整をどうするかがあります。最終的にはどのように調整されたのでしょうか。

大川:最後に会社が決めて延期する選択をしました。

野﨑:質問なのですが、やめた方がいいと言った証券会社さんは、後ろにすればベターなものができるというトーンだったのか、ここではできないというトーンだったのか、どちらですか。

大川:両方あると思います。当時案件は成立すると考えていたと思います。ただ、不安定な市場環境で上場した後のセカンダリーの株価推移に主幹事も会社も懸念を持っていました。

その状況でいくべきかどうかというところで、「中長期の成長性を考えると株価は戻ってくるから上場して、事業成長に集中した方がいい。ここで止まるべきではない。」という考えもあり、一方では「資本市場デビューなので、安定したマーケット環境の中で上場して信頼を作るべき。」という意見もあり、どちらも正しい意見ではあると思っていました。

寺田:結果的には、その時はやめたと?

大川:やめました。

■ 上場スケジュール変更への対応

寺田:上場スケジュールを変更されていて、承認されてから中止のケースもありますし、表に出る前に変更もあると思います。直前で変更となると、特に社内に対してコミュニケーションが難しい部分もあると思っているのですが、大川さんは特に社内に対してどのように説明されていましたか

大川:社内に関しては、何を伝えられるのか、従業員の人たちからすると何が知るべき必要な情報なのかを経営陣として決めました。それ以降は丁寧に説明するしかないと思うので、全体に対してのアナウンスメントと、個別に説明も含め繰り返し説明するしかないと思います。

我々の場合は株主もそうだったのですが、幸いにもネガティブな反応が起きることはほぼありませんでした。どちらかというと受け手側、株主もそうですし、従業員のメンバーも比較的成熟していたり、会社のポテンシャルへの信頼の方が高かったように感じます。

どちらかというと幸運というか恵まれていた環境で、センシティブなトピックなのですが、プロセスはスムーズだったと思います。

寺田:ispaceさんは、いかがでしたか。

野﨑:実はハードルがそんなになかったと思っていますね。丁寧に話をすることに尽きると思っています。当社の場合、社内はIPOを通じて継続的に資金調達をしていかないと自分たちの開発が止まってしまいます。

「上場が延びて、資金調達も延びるけれども、その代わりにこれをやるからね」と丁寧に話しましたし、全従業員にマーケット環境をマーケットチャートを全部見せながら「今こういう環境でスタートアップのチャレンジしていかなくちゃいけないんだ」という理解はかなり求めましたね。

寺田:事前にコミュニケーションを丁寧に取っておいて、経営陣や会社への信頼を積み上げておくということが大切ということですね。

野﨑:そうですね。

■ IPO後の資本市場との対話

寺田:実際にIPOをされた後、お三方は今、上場企業のCFOとして、まさに毎日株価と、そして投資家と向き合っていらっしゃると思うのですけれども。ぜひ想定と比べてどうだったか、ベースフードさんの事例をお伺いしたいと思っています。

冒頭にあったとおり、公募価格に対して今、株価的には少し下回っているような状況です。IMやロードショー、上場後のコミュニケーションを振り返るといかがでしょうか。

山本:こちらとしては、言っていることは変わっていません。「こういう成長戦略で伸ばしていきます」「ここに投資していきます」というのをロードショーで話して上場したので、その説明通りのことを実行しています。新しく入った期からも当然その成長戦略に沿ってやっているので、そこはあまり変わっていません。

ただ、赤字があまり許容されない時期だったので、出た期の決算の反応としては良くなかったですし、1回株価が落ちてしまうとと、信頼を回復するためには結構時間がかかると今感じています。株価は市場の声としてしっかり受け止め、業績で示して回復させていく、そこは苦労しながらも取り組んでいるところです。

寺田:今振り返ってみると、例えばもう少し公募価格を調整しておけばよかった、もしくは投資家とのコミュニケーションをこのようにしておけばよかったみたいな振り返りはございますか。

山本:ロジック自体はずっと変わっていないので、公募価格を抑えたほうが良かったという考えは特にはないですが、特に海外投資家の方の商品や会社に対する理解度はもう少し上げられたかという思いはあります。

我々はtoCのビジネスなので、日本に住んでいらっしゃる投資家の方は手に取って体験することができるのですが、海外投資家の方はそれが出来ないので、そこを埋めるための努力はロードショー前、それこそIMの時からもう少しできたとは思います。

寺田:ロードショーの時に参加いただいた投資家は、その後も継続して今も保有されているのでしょうか。

山本:保有されている投資家もいらっしゃいます。

寺田:上場後の推移という点で言うとispaceさんの株価は大きく上昇していますが、実際何が起きているのでしょうか。

野﨑:当社の場合、すごく大きな論点になったことがあります。もともと我々がやっているミッション1として、去年の12月に最初の月に行く打ち上げがあり、その後、実際の月面着陸が4月26日にあったのですが、上場したのが4月12日だったので近接してしまいました。意図してそれをやったわけではなくて、結果的に上場が近づいてしまった。実はミッションのスケジュールも少しずれて、結果的にそこになっただけです。

上場してから実際に我々は着陸に1回失敗してしまったので、そこで急落しました。ただ、その原因分析はテクノロジーの内容も含めて、投資家・メディアの方にも力を入れて行いました。来年またミッション2をやるのですが、そこに影響がないということが一番の安心材料でした。

実は上場の時からずっとロードショーでも言っていて。JAXAのH3ロケットもそうですが、宇宙開発は1回着陸に失敗すると、これでおしまいだという雰囲気が大きいんですよね。そうではなくて、車でも何でもそうですが、継続していかないとテクノロジーの進化はあり得ません。語弊を恐れずに言えば、実は失敗できないことが一番の課題なんですよね。

もちろん失敗する前提で言っているわけではなくて、我々も最大限、成功の確度を上げてやっているのですが、何かあるかもしれませんと。ただ、何かあったとしても必ず次につながっていく道筋を示せます。幸いにして、そこで示すことができたのが株価の上がった一番の要因だったと思います。そういう対話をヒリヒリしながらやっているのが、今日ですね。

大川:取引をされているのは機関投資家の方が多く入っているのか、それとも個人の方ですか?

野﨑:感覚では個人の方が多いと思います。上場の時に入った方々は株価があれだけ上がってしまったら抜けている方がいるのは間違いないですし。ヘッジかもしれませんが、その後に入っている機関投資家の方も当然います。しかし、個人の方々がよく応援してくださっていますよね。トピック的にもそういう応援をいただけるものだと思います。

寺田:機関投資家で「御社のフェアバリューはいくらですか」と聞いてくる方がいると思うのですが、ispaceさんはどう答えていらっしゃいますか。

野﨑:これも非常に難しいですね。上場の直後に、大きな自分たちのテクノロジーを見せる場があったんですよ。実は、着陸は失敗したのですが、開示をものすごく工夫をしました。

それ以前に積み重ねているものが非常に大きいので、ここまでの実績はちゃんと実証しましたということは言っていて。その分がちゃんとアドオンで乗っているんですよね。株価は上がりましたが、当然その先のビジネス、向こう数年間のことを考えたらもっとグロースの余地はあるという説明をずっとしております。

寺田:例えば、バイオの会社だとパイプラインがいくつかあって。それが膨大な利益を生み出すシナリオが5~10%だと計算をして、期待値で株価が形成されていると思います。御社の場合もそのように機関投資家を弾かれているものなのですか。

野﨑:DCFをやっている方も一部いらっしゃるとは思うんですよね。ただ2022年のクラッシュ以降、だいぶバリュエーションの仕方も変わったと思います。そもそもテックグロース銘柄に対してすごく厳しくなりました。その中で比較して見られてしまう部分が大きいと思います。

難しいのは、我々の場合は比較がないことです。世界で宇宙企業はSPACで上がった人たちだけで、別の理由でかなりやられてしまっているので、そこに引っ張られないようにしているのが現在です。

寺田:今は全く引っ張られていませんか。

野﨑:幸いにして、あまり連関はありません。

■ IPOにまつわるあれこれの実際

寺田:あっという間にお時間が迫っているので、最後の質問です。巷にはIPOのセオリー、定説があると思います。

それに対して実際、少し違うとか、その通りだったと思っていらっしゃるポイントがあるか。これに限らずオーディエンスの皆さんへのメッセージをお一人ずつ、ベースフードの山本さんからお願いできればと思います。

山本:我々もセオリーと言われていることは調査した上で、それができるか、できないかを一個一個検討していました。ただコーナーストーン投資もそうですが、状況が違うとセオリーもかなり変わってきてしまうと思います。

我々の状況下でのIPOと、今からのIPOではまたかなり違うと思っているので、重要なのは状況に合わせて情報をアップデートしていく点と、本質的なところがどこかをしっかり考えて設計して実行することだと思います。

寺田:AnyMind Groupの大川さん、いかがでしょうか。

大川:個人的にはセオリーの流行り廃りは気にしなくていいと思っています。例えば、ロングオンリー、国内、海外みたいなカテゴライズ自体にあまり意味はなく、そこに惑わされ内容にしていました。そもそもIPOのプロセス自体が定型化できるものではなくて、個別性がかなり強いものだと思っています。

その中での本質的に大事なものは、コーポレートガバナンスや管理機能を上場企業としての水準まで引き上げることや会社のフェアバリューがいくらなのか、それをどのように市場に伝えるかを議論することだと思います。

そこを考えて、必要だと思えばセオリーに則っていなくても採用すればいいと思っていますし、そうではないものに関しては、別にやらなくてもいいかと思います。あまり気にせず本質的に何が重要かを議論していくのが大事だと思っています。

寺田:最後に、ispaceの野﨑さん、いかがでしょうか。

野﨑:皆さんおっしゃったとおりで、セオリーはないというのが正直な思いです。考えてみたら当たり前で、スタートアップみたいな企業がそもそも市場に出てきていること自体、産業の変遷期だと思うんですよね。

それをどう売っていくかも昔みたいにプライベートな調達とIPOというのでもなくて、特に親引けをかなり入れていただいたのは、しかもVC。いわゆる金融機関が親引けで入っているのは、過去にないことをやっているので、だんだん変わっているのだと思うんですよね。

そういう中で証券会社さんが「こういうものです」と言うのは大体嘘だと思っていて。「そんなこと、わからないでしょ」と言うと「確かにそうですね」となります。そういうプロセスを一緒にやっていくのだと思います。

やってみて思ったのですが、一つ間違いないと思ったのは、セオリーではないですが「出れる時に出ろ。取れる時に取れ」というのは絶対正しいと改めて感じています。

寺田:あっという間にお時間が来てしまいました。今日は本当に実践的なお話、また三者三様のIPOプロセスのお話、ありがとうございました。

では改めて、本日登壇されたお三方に皆さん拍手をお願いできればと思います。どうもありがとうございました。

以上