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「ちゃんとしゃがんで、ちゃんとジャンプ」厳しい環境下でバイオベンチャーCFOが心がけること

登壇者

秦 耕平
オンコリスバイオファーマ株式会社 執行役員財務部長

小林 直樹
株式会社モダリス 執行役員CFO

久納 裕治
株式会社CureApp 取締役CFO

野村 広之進モデレータ
そーせいグループ株式会社 執行役副社長CFO

■ 厳しい環境下だからこそ心掛けた市場や投資家とのコミュニケーションは?

野村:さて、2つ目のテーマは「厳しい環境下だからこそ心掛けた市場や投資家とのコミュニケーション」です。本セッションをご覧になっている方が一番知りたいテーマだと思います。私も投資家とのコミュニケーションに悩む時があります。この環境下だからやったこともあります。後ほどご紹介したいと思いますが、皆さんはどのようにお考えですか?秦さん、非常に重要なポイントだと思うので、可能であれば流動性の話と絡めてご意見をいただきたいと思います。

秦:流動性を非常に意識はしているのですけれども、株価と同じように根本的にはコントロールが利くものではありません。一方で、厳しい環境の中でのコミュニケーションは、真摯に真面目に対応して、コツコツやっていることを伝えていくしかないと思います。秘密のレシピや秘密の方法はありません。真面目にやっている姿勢や態度が、必ずどこかのタイミングで醸し出されると思います。

2019年、流動性がすごく上がった時の半年~1年前は、株価のピークの10分の1近い水準でした。潮目が変わるタイミングは事業の進展と一緒に、突然ですが自然と現れます。次のための準備を今やっておく。突然現れる潮目の変化に対応できるよう、厳しい環境の時こそ、ちゃんとしゃがんで、ちゃんとジャンプできる準備をしていくことが大事です。

野村:私の言いたいことも全部言われてしまった感じです。本当にそのとおりです。難しい環境下だからこそサボってしまいがちですけれども、そこが一番重要なところだと感じています。小林さん、ぜひご意見をお願いします。

小林:研究開発型の場合、皆さんが苦労されているところだと思います。当社の場合、ここのスタンスがはっきりしています。対症療法はしません。株価対策もしません。事業の本質で訴求していくという直球ど真ん中ストレート攻めです。簡単に言うとそういう感じです。

これは私の理解でもありますけれども、R&D型バイオテックのハイリスク・ハイリターンに向かっている投資家には2パターンあります。技術については一定の理解にとどまっているけれども、値動きがいいので面白いセクターだと判断して投資する短期型の方。一方で技術への理解もされていて、世界初の画期的な新薬ができることを期待して投資する長期型の方がいます。この2パターンは個人でも機関投資家でもいらっしゃるので、個人と機関で単純に分けた切り口ではありません。

先般、個人投資家向けの説明会をやる機会があり、思い切った説明をしました。個人の方の場合、どうしても技術的なハードルもあって本質的な会社の価値を見定めることが難しい可能性があります。すでに技術的な説明を含んだIRの資料は出しているので、そこを繰り返すことのみよりも、「医薬品開発への投資は賭けです」「企業は開発やポートフォリオのマネジメントをすることにより確率の良い賭けにする努力をしています」と説明しました。

更に、本質的な価値との対比から「プレスリリースで一喜一憂するのは体に毒です」とCEOの森田もそういう言葉をあえて選んで、分かりやすく伝えています。本質的な価値をR&Dの会社で見出すのは難しいかもしれませんが、その説明を丹念にすると同時に、背景を含めて投資家の皆さんが何に賭けているかを理解する助力になればという考えで説明を行いました。

こちらの反応ですが「明言してもらって、すっきりしました」「たしかにそうだと、改めて強く感じました」といった前向きなものが多かったと感じています。研究開発型の事業ですので技術的な背景や優位性を説明することは当然ですが、賭けであることを明確に伝えるスタンスは重要であったと思います。

一方で、分かっている方に向けては、同じような説明をしても「そこは分かっています」という反応になります。学会では6つの演題を発表しました。内2つは口頭のプレゼンができました。今までは、新しい領域をやっていることもあって、戦略としてはステルス的にあまり言わないで進めることもありましたが、上場会社になり、学会でもプレゼンスを上げて分かっている方にもより詳しく説明ができる機会を活用していきたいと考えています。

理解度が異なる投資家が混在しているというのも研究開発型の特徴かと思いますが、その幅広い投資家層に向けて適切なコミュニケーションを選択して行っていくスタンスが重要ではないかと考えています。

野村:とてもよく分かりましたし、共感するところも非常に多かったです。個人投資家とお話しすると、株価対策というキーワードがすごく出てくると思いますが、私も小林さんの対症療法はしないという方針には賛成です。一例を挙げると、当社でもいいニュースが出るまでの間は、株価は期待値で上がり、その間、悪いニュースが出てもほとんど下がらない時期がありました。ところが、いいニュースが出た瞬間にこれが逆回転し、株価が下落していきました。相場環境も当然ありますが、本当は価値が大きく上がる内容であっても、期待値が事前に上がっていたことが、結果的にやや過剰な株価対策と同じ役割を果たし、その後に反動が出た側面があったのだと今では思っています。去年、CFOになる前に感じたところです。

また、短期の投資家と長期の投資家、大枠では個人と機関とで分けられますけれども、実は個人で長期の方もおり、機関で短期の方もいますので、長期と短期と言った方がいいような気がしますが、そのような定義で長期の投資家相手にファンダメンタル・バリューをきちんとアップデートしていくということが重要だと考えています。ここを突き詰めるのは、意味のある株価対策だと思います。ファンダメンタルのバリューがあるという前提と、その動きが小林さんの言う2つセグメントを分けてどのように説明していくか、というところに繋がると思います。いずれにせよ、長期で見ていただける方にちゃんとアプローチをしていくことが重要です。

小林:そうですね。長期の方へのアプローチはけっこう専門的です。そういったものを一般の方にもなるべく理解していただきたいという思いがあります。ここでアナリストの方々のご活躍が非常に重要であると思っています。カバレッジしていただいているアナリストの方は、リリースを出した翌営業日にマーケットが開く前までにレポートを書いてくださいました。主に機関投資家さんがご覧になっていると思います。アナリストは会社のIRチームの一員くらいの思いです。アナリストさんとのコミュニケーションを日頃から継続しておくことも研究開発型では重要だと思います。

野村:元アナリストとしては嬉しいような、辞めてしまって申し訳ないような。

続いて久納さん、投資家の種類が違いますので毛色が違うところがあると思います。もし、お考えのことがあれば。あるいは、厳しい環境下に限らなくてもいいと思いますけれども、どういったコミュニケーションを心掛けているか教えていただけますか?

久納:今年は、去年とはだいぶ環境が違っています。将来の上場時を見据えてお話を出来ていた機関投資家さんから「時間を取れません」と言われることも多くありました。それでも会ってくれる投資家さんがいらっしゃいます。中長期で我々のことを見てくれているということでもありますので、現時点でご縁がなかったとしても、しっかり将来に向けて進捗を説明しています。我々の事業は1回聞いただけでは分かりづらく、中長期で見てもらえる関係性に発展しづらいところがありますので、何度もお話しさせて頂けるように内容を整理してお話することは心掛けています。

あと、未上場ラウンドという観点で、社内でも議論していたのは、新規の調達として厳しい環境なのでバリュエーションや調達額の納得度を高める取り組みをしようという点です。既存の株主さんから見ても「こんなに調達が必要なの?」「このバリュエーションなの?」といった質問が出てきます。普段からいろいろ手を尽くしていることを理解してもらえるような説明を尽くし、「その上でこの調達がベストなんだ」と、ちゃんとご納得頂ける環境、関係づくりが非常に重要です。

野村:上場企業もそうですけれども、非上場だと特にそうですよね。既存株主さんのマネジメントでうまく賛同を得ないと、次のファイナンスには行きにくいと思います。全くそのとおりですよね。去年までニコニコして受け入れていた方が「ちょっと今年は……」というのは、非上場、上場で変わらないのだと、理解が深まりました。

久納:お三方ほどではないかもしれませんが、我々も株価を日々見ながら「このままだと、また厳しいことを言ってくるかな……」と感じていました。

■ 未来に向けて、企業戦略と今後のファイナンス戦略を総括

野村:今までのお三方の話の中で共通しているのは、非常に厳しい環境下では打てる手は限られており、普段から手を尽くし、備えていて環境が厳しくなった、という状況になるべきだということかと思います。普段からやっていることのクオリティを上げましょう、ということが1つのコンセンサスです。

最後に、未来に向けてどのようにお考えになっているか。特に事業戦略とファイナンスの繋がりの考え方と、あとは皆さんに対してフリーにメッセージがあればいただきたいと思います。秦さんからお願いします。

秦:今日は、一貫して厳しい環境下で、という前提がありました。各社さまざまな前提条件があり、明るくなる前提条件が成立している場合は未来が明るくなり、前提条件が崩れると厳しい環境になります。普段から、今ある前提条件が壊れた時に何が必要になるかを意識する。事業活動のリスクヘッジに近いような活動が重要だと思います。

逆に悪い環境が良くなる瞬間も当然あります。オンコリスも、潮目が変わる瞬間を何度も経験しました。必ず潮目の変わる瞬間はあり、自分たちで流れを引き寄せ掴めるように、いい時も悪い時もちゃんと準備しておくことが大事です。

野村:ありがとうございます。私がやるべきまとめを半分やっていただいたような雰囲気になっていますね。本質的に重要なことをちゃんと進めておくということです。その中でプランB、プランCも当然考えておいて、それが活きる時もあります。いろいろやっている中でうまくいったものが表に出ていますが、実は見えないところでいろいろ手札を持っていて、その中でベストを切っているということだと理解しました。

秦:そうですね。秘密保持下で進めていて、うまくいかなかったこと、表に形として出せなかったものがたくさんあると思います。研究開発の特徴です。そのネタをどれだけ仕込んでおけるか、ということが重要だと思います。

野村:手札の数が大事ということですよね。ありがとうございます。小林さん、いかがでしょうか?

小林:普段からの取り組みは、全くそのとおりだと思います。当社の場合、具体的にビジネスモデルとしても取り組んでいることがあります。上場時の目論見書にも書いていますが「ハイブリッドモデル」という言い方をしています。普通、創薬型のベンチャーは、自社でずっと開発しています。要は資金と事業のリスクを全部自分たちで背負って、ライセンスアウトというパートナーリングをして、そこで一気に現金化します。そこで一発逆転しPL上も利益が出ます。

本質的な価値を自社で一生懸命育てて、価値が高まったタイミングで外部に出すことで利益と資金に変わります。当社は自社モデルと言っていますが、それ以外に協業モデルがあります。当社は創薬のプラットフォームを持っていますので、パートナーの製薬企業さんと最初から協業して進めることで資金と事業のリスクをシェアするというモデルです。これをやると、資金的なリスクが少し低減します。このハイブリッドモデルがしっかりと効いてくると、自社だけで資金リスクを背負わなくてもよくなりますので、そういう取り組みを実はすでにやっています。

ただ、十分に効果を発揮するためには、もっとパイプラインの数を増やさないといけません。したがって、もう少し時間がかかるとは思いますが、仕組みを会社として持つことも1つの方法であると考えています。

売り上げを当初は持っていない研究開発型は売り上げフェーズに移行するまで、いかにリスクを低減させる仕組みを入れ込むかに尽きる気がします。これは創業時にビジネスモデルを考案する際に先ずは考えるべきで、当社ではハイブリッドモデルがそのアイデアとなりました。

また、当社ではビジネスバリューの拡充という言い方をしていますが、R&D以外にもいろいろな機能をもつことで企業価値を最大化していく考え方があります。たとえば製造フェーズに行ったら自分たちでも製造することで収益を生むチャンスが生まれます。これを突き詰めていくと製薬会社になっていくのですが、それが面白いかどうかという議論は別にしてファイナンスのリスク低減という面では、そういう考えもあります。

野村:ありがとうございます。僕は多分、秦さんの回答を勘違いしていて、手札はファイナンスの選択肢かなと思っていました。今の小林さんのお話を聞くと、どちらかというと事業の手札という意味でもたくさん持っていて、ファイナンスの環境によって変わると。たとえば、ハイブリッドモデルのどちらにウエイトを置くか、今期はどちらを進めるか、そこの切り替えも必要になってくるということですか?

小林:本当はそういうことができればいいと思いますが、更にパイプラインの数が増えてこないと効果が限定的だと思います。また、パートナーと一緒にやっていることですし、自社だけで意思決定できるわけではありません。。しかしながらそういう選択肢をもって取り組んでいれば可能性は広がりますので、構造的に入れていくことが重要だと思います。

野村:そこを意識して事業を進めていくことが大事だというご指摘だと思います。ありがとうございます。

最後に久納さん、ファイナンス戦略はなかなか語りにくいところだと思いますが、いかがでしょうか?

久納:我々の研究開発ステージも比較的いろいろなものがあります。事業化に向けて研究開発とは違う性質で資金が必要なもの、投資フェーズのもの、いずれに関してもファイナンス面から支えるという形を目指しています。

「治療アプリ®︎」はまだまだ新しい領域ですので、比較的新しいチャレンジがしやすいと考えています。新しい種としてパイプラインをそろえながら、育っている芽をしっかり大きくし事業化をすることで、次の投資に繋げていくという好循環を作れるように、今は事業とファイナンスのアラインをうまく取っていくという形でやっています。

野村:そこのバランスを取るという意味だと変わらないかもしれませんね。

久納:そうですね。株主さんや株価など、考えなければいけない要素は変わってくると思うのですけれども、本質的なところは変わらないと思います。本日も皆様のお話を聞いて、このままちゃんと頑張っていこうと、気持ちを新たにすることができました。

■ さいごに

野村:ありがとうございます。今日はお付き合いいただきまして、ありがとうございます。非常に納得感のある結論というか、新しいことは細かいところではたくさんありました。でも、本質という意味では全く変わらないということです。最後に久納さんが締めていただいたとおりで「いかに事業を進めていくか」「やるところは変わらない」というコメントに現れていたと思います。

一方で、テクニカルな部分では株価の対策や株主の割り付け、あとは手札をたくさん持っておくことは、平時も同じだと思います。今日の気づきは、緊急時だから何かやろうというと失敗するということです。普段からやっていることが緊急時に活きるという関係が正しい関係です。皆さん、にこやかにディスカッションしている裏には、社内には実はいっぱい引き出しや手札があると思います。その引き出しの深さが数年後に活きてくるということではないでしょうか。

テスト勉強の時に、「やってない」と言っていたけれども、実はみんなはやっていて僕だけ本当にやっていない、ということにならないようにしたいと思います。今日は私も先輩方にいろいろ教えていただきました。今日の議論が皆さまのご参考にもなればと思います。

本日はお付き合いいただきまして、ありがとうございました。このセッションはこれで終了させていただきます。

以上