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Visional・ラクスル流の“伝わる成長戦略の描き方”とは

2022年7月27日にグロース・キャピタル株式会社主催で行われた、Growth CFO Summit Vol.8。セッション2のテーマは「成長戦略の組み立て方、伝え方[IR]」です。モデレータはグロース・キャピタル代表取締役の嶺井、そしてアセットマネジメントOne株式会社の岩谷渉平氏、ビジョナルCFO・CAOの末藤梨紗子氏、ラクスルCFOの永見世央氏の4名で熱い議論が繰り広げられました。

登壇者

岩谷 渉平
アセットマネジメントOne株式会社 運用本部 株式運用グループ ファンドマネジャー
末藤 梨紗子
ビジョナル株式会社 執行役員CFO
永見 世央
ラクスル株式会社 取締役CFO
嶺井 政人モデレータ
グロース・キャピタル株式会社 代表取締役
セッション2「成長戦略の組み立て方、伝え方[IR]」

嶺井政人(以下、嶺井):皆さん、こんにちは。それでは、セッション2を始めたいと思います。セッション2のテーマは「成長戦略の組み立て方、伝え方[IR]」です。

嶺井 政人(みねい・まさと)グロース・キャピタル株式会社 代表取締役社長。早稲田大学卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社し、投資銀行部門およびクレジットリスク管理部門で主にテクノロジー企業の資金調達や格付業務に従事。2013年、マイネットCFOに就任。ファイナンスおよびマーケティング分野を中心に事業の成長を牽引、東証マザーズに上場。その後2016年より副社長に就任し東証一部上場を実現。2019年4月、グロース・キャピタルを設立。

この1年、大きくグロース銘柄を取り巻く環境は変わりました。グロース銘柄が低迷する中で、投資家に成長戦略を理解してもらえない、評価してもらえないという声をよく聞きます。そういった声を受けて、このセッションを設けました。

今日は皆さんが注目されているベンチャー企業や投資家がどのようなことを考えて成長戦略と向き合っているのかを深掘りたいと思います。

各登壇者の自己紹介

ビジョナル株式会社・末藤CFOの自己紹介

嶺井:登壇者のご紹介をします。では末藤さん、自己紹介をお願いします。

末藤梨紗子氏(以下、末藤):ビジョナル株式会社の末藤梨紗子と申します。よろしくお願いいたします。出身はモルガン・スタンレー証券でM&Aに携わった後に、事業会社のゼネラル・エレクトリックとGSK(グラクソ・スミスクライン株式会社)を経て、2019年に当時の株式会社ビズリーチに入社し、今に至ります。当社は、グループミッションに「新しい可能性を、次々と。」と謳っていますので、このセッションのテーマは非常に大事にしています。正直、うまくできているか分からないので、いろいろとお話をしながら私自身も学んでいきたいです。よろしくお願いします。

嶺井:少しだけ補足しますと、私も新卒がモルガン・スタンレー証券なのですが、内定時のメンターが末藤さんでした。学生時代からずっと尊敬する憧れの存在なので、今日ご一緒できることがうれしいです。よろしくお願いします。

続きまして永見CFO、よろしくお願いします。

ラクスル株式会社・永見取締役CFOの自己紹介

永見世央氏(以下、永見):よろしくお願いします。ラクスル株式会社の経営には2014年から参画しています。それ以前は、新卒でみずほ証券株式会社に入って、その後はカーライル・ジャパン・エルエルシーに7年ほどいまして、途中2年間、アメリカのビジネススクールに行きました。2013年から会社の経営や事業にフォーカスしたいと思って株式会社ディー・エヌ・エーに行き、2014年にラクスルに参画しています。


今日は嶺井さんと末藤さんの掛け合いを楽しみにして来ました。よろしくお願いします。

嶺井:永見さんから事前に「嶺井さん、先輩だからって忖度しちゃダメだよ」と言われていますので、気をつけながらグイグイいきたいと思います(笑)。ありがとうございます。

続きまして岩谷さん、お願いいたします。

アセットマネジメントOne株式会社・岩谷ファンドマネジャーの自己紹介

岩谷渉平氏(以下、岩谷):岩谷と申します。よろしくお願いします。1998年に銀行に入り、2004年からマーケットに出てきて、2008年からグロース領域で投資をしています。転職をした1998年、2004年、2008年のマーケットは、こんな感じでした。


嶺井:丸が乗っている部分が移られているタイミングということですね。

岩谷:はい。ロングタームで何をどうやって伸ばしていけばいいのか。ここからどういうものが立ち上がってくるのか。これまでも、株価調整局面がくるたびに次の希望を持ってリスタートする、そんなスタンスでキャリアをつくってきました。そんな経験をもとに、今日のテーマについてもお役に立てればと思います。よろしくお願いします。

嶺井:よろしくお願いします。最後に、簡単に私の自己紹介をします。モデレータを務めますグロース・キャピタルの嶺井です。新卒でモルガン・スタンレー証券に入り、投資銀行業務やクレジットリスクマネジメント、いわゆる格付けを付けるアナリストなどを経て、2013年にマイネットという、いまスマホゲームやスポーツのDXを手掛ける会社にCFOとして入りました。資金調達やM&Aを進め、2015年に東証マザーズ、2017年に東証一部上場を経験し、上場後は事業の方にウエイトを高め、副社長をしていました。


前職で未上場から上場後まで経験した中で、上場後の成長支援が途端に手薄になることに気づきました。上場企業といっても、まだベンチャーで発展途上です。ここの支援もしっかりしないと、上場後に成長を継続していくのは容易ではないなと感じ、上場後のベンチャーの成長支援をしようと2019年に設立したのが当社グロース・キャピタルです。

上場ベンチャーが非連続な成長をしていくための打ち手として、M&A、新規事業、大規模なマーケティングなどがあります。それらを資金調達から一気通貫で支援しています。
事例としては、Kudanという研究開発型の上場ベンチャーの15.9億円の資金調達とIRのご支援や、Aimingというスマホゲーム企業の21.2億円の資金調達と調達後のマーケティング支援なども行っています。

■ 本日のテーマ

嶺井:本日のテーマはこちらです。まず、岩谷さんに企業のどういったところに注目しているのかを伺いたいと思います。その後、どのように成長戦略を組み立てているのか、どんな壁があるのか、どのように乗り越えているのか、ということを末藤さんや永見さん中心にディスカッションを進めていきます。

■ 投資家の視点

早速、「投資家の視点」について、岩谷さんがどういったところを見ているのか聞かせていただければと思います。

岩谷:皆さん、成長戦略に関して「どうやって作ろうかな?」「全体の整合性はどうしよう?」「外したらどうしよう?」「競合が見てるかもしれない」と、悩みは多いですよね。

それでつい忘れがちだと思うのですが、最初の起点が重要です。たとえばホームページの中や資料の冒頭、あらゆるチャンスを使って、この会社はそもそも何をする会社なのか、をしっかり書き込むことが大事だと思います。最初の起点を明確に置いておくことと、そこから初期の成長の姿を書いておくことが大事です。

岩谷 渉平(いわや・しょうへい)アセットマネジメントOne株式会社運用本部株式運用グループ・ファンドマネジャー。1998年、株式会社日本興業銀行。2004年、UBS Global Asset Manegementでテクノロジー、エネルギーなどを担当。2008年にアセットマネジメントOne株式会社に入社。

嶺井:そこが1つ目の「課題設定のナラティブ」ですね。

岩谷:そうですね。できるだけ具体的に、パーソナルな課題意識から書くことができるとよりいいと思います。

嶺井:そこを起点にしながら、長期で投資できる構えを適切なタイミングでつくっていく、財務上の構えもつくっていくということですね。

岩谷:そのあたりも成長戦略のバックボーンになります。成長戦略で書いたことが本当にできるのかを投資家は見ていると思います。たとえば、時間がかかる企みだったら、組織的な構え、人員、評価の体系ができているのかを見ています。お金がかかるのであれば、お金をどのように手配するのかの根拠がしっかり書けているかを見ます。

最後の方にいくと、たとえば本業でしっかりキャッシュフローがあって、余裕があると。次の機会に向けて、こんなアロケーションをしていきます、という構えが書けるといいなと思います。

嶺井:「有事の懸命なメッセージ」はどんなものがあるのでしょうか?

岩谷:ある断面で切った時の話です。成長戦略というと、なだらかに上がって滞りなく成長する画を描きたくなるものです。しかし、日々の事業はそんなふうになっていないこともあるでしょう。代表的な事例として、コロナで想定できなかった、メンバーが病気で倒れたなど、もう全然思った通りには進まない。そんな時こそ、リアルなメッセージを埋め込むことをおすすめしたいと思います。そうすると、なだらかな成長曲線もリアリティーをもって迫ってくるようになります。

嶺井:具体例を挙げて頂いていますので、ご紹介したいと思います。まず、課題設定のナラティブについて、Visionalもラクスルも共にCEOのメッセージがあります。

岩谷:見ていただくと分かるのですが、フォーマットは同じではありません。全く違う時期に、それぞれフリースタイルで書いたドキュメントですけれど、おどろくほど似た要素が埋め込まれています。創業初日はどうだったのか、その前夜はどうだったのか、どういう考え方で、長期で展開しようとしているのか、書かれています。これらの要素が重要です。

■ 長期で投資できる構えを適切なタイミングでつくる

嶺井:続きまして「長期で投資できる構えを適切なタイミングでつくる」について教えてください。

岩谷:Visionalさんの場合、上場前に構えを変えられています。新しいチャレンジを次々にやっていく根拠になりますね。

ラクスルさんの場合は、上場して試行錯誤しながら18年、19年、20年。その中で、こういう構想で成長して整えてきたことが分かります。企業の断面は違いますが、両方とも体制を整えていることが分かります。

嶺井:財務上の構えについてはいかがでしょうか?

岩谷:ここから意思がかなり分かれてくるので、すごく興味深いです。全部出すかは戦略的な要素が見えてくるので何とも言えませんが、たとえばラクスルさんの場合、上場して非常に良好な金融の環境が3年間続きました。この間にしっかりとバランスシートを作っています。こういうことは我々もディスカッションしてきたので、十分できていて良かったと思います。

Visionalさんの場合は、先ほどの組織図の中でリソースをどのように振っていくかということを精いっぱい出してくれていました。これを追って後から検証できるようにしていると感じます。

■ 有事の懸命なメッセージ

嶺井:最後に「有事の懸命なメッセージ」についてお願いします。

岩谷:日々いろいろなチャレンジがあります。その代表的なものを挙げました。ラクスルさんとのディスカッションでは、コロナの時にどのように乗り切ったのか。かなり丁寧にメッシュの細かい施策を打ちながら会社を動かしていきました。その様子を工夫して開示しています。

嶺井:コロナ禍が始まった直後、投資家の不安なタイミングで一気に解像度を上げて開示されていました。それまでにはなかった週次の推移も公開していましたね。

岩谷:推移をしっかり見せていますので、理解が深まりました。成長戦略とは関係ないのですが、日々の開示を「ここは大事だ!」としっかり強調しておくのは、実は成長戦略の大事なポイントです。

嶺井:永見さん、2年前の開示になりますが岩谷さんがあげられた週次のグラフをどのように振り返りますか?

永見:今日のテーマの成長戦略はどちらかというと、ロングタームなことに目がいきがちです。当然、ロングタームは大事ですけれども、一方で時間軸が違う投資家の方が会社を評価するのも事実です。デイリーでトレードする人もいれば、週次でトレードする人もいます。もしくは月次、四半期、年間。フィデリティのように未上場の時から7年間も保有いただいている投資家もいます。多様な投資家に対して報いていかないといけません。上場して4年経つので、より考えが深まるようになりました。

永見 世央(ながみ・よう)ラクスル株式会社 取締役CFO。慶應義塾大学卒業後、2004年にみずほ証券株式会社入社。カーライル(2006~2013)、ディー・エヌ・エー(2013~2014)を経て、2014年にラクスル株式会社に入社。ペンシルバニア大学ウォートンスクールにてMBA取得。

この2020年のタイミングは、外部からすると短期的には情報がなく心配です。おそらくダメージを食らっているだろうというタイミングでした。実際、どのくらいダメージを受けたのか、どのくらい回復したかをビビットに伝える方が真摯だと思います。

投資家と向き合う時、僕を含めて他のマネジメントチーム、IRチームが絶えず大事にしているのは長期での信頼関係です。悪いこともしっかり伝えていく。信頼が上がっていくことを大事にしています。このタイミングでも包み隠さずちゃんと伝えるようにしました。ビジビリティが高い方が信頼度は上がると思っているので、このような開示をしています。

■ 成長戦略の組み立て方

嶺井:ここからはVisional、ラクスルの考え方により迫っていきたいと思います。大きな質問になってしまうのですが、どのように成長戦略を組み立てていますか?末藤さんからお願いします。

末藤 梨紗子(すえふじ・りさこ)ビジョナル株式会社 執行役員CFO。慶應義塾大学卒業後、モルガン・スタンレー証券株式会社(現:モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)に入社。2010年にゼネラル・エレクトリック(GE)でグローバル・リーダーシップ・プログラムに参加後、マーケティングや経営戦略業務に従事。2016年よりグラクソ・スミスクライン株式会社で財務、経営戦略、コンプライアンスのエグゼクティブを歴任。2019年、株式会社ビズリーチに入社。2020年、現職に就任。

末藤:弊社の場合、上場したのは去年4月です。上場に向けていろいろなことを頑張ってきたことによる貯金があると思っています。岩谷さんが挙げてくださったCEOメッセージもそうですし、グループ経営体制に移行したのも、上場後にマーケットから常に見られている中で、自分たちが目指したい姿はどういうものなのか、どのように課題設定のメッセージを伝えればいいか、どうやったらコーポレートアクションを取りやすいか、ということを考えて、あのような形になりました。

今も基本的には上場前にワード・バイ・ワードでどんなメッセージを伝えたいか、どんな未来を描いていきたいかをマネジメントで膝を突き合わせて描いたところに依拠しています。

ただ、市場環境も変わるので社内でどうアップデートしていくか。事業の未来を描くのは一義的には事業責任者です。予算や中計を毎半期ごとに議論する際に、目先の数字だけではなく中長期的な目線で議論することを大切にしています。どのような事業をつくっていきたいのか。そのために何の投資が必要なのか。ビッグピクチャーで各事業責任者がマネジメントの前で話していき、時間をかけて議論を重ねます。

その議論の結果、当社の事業ポートフォリオの投資の再配分を決めることもあります。このエクササイズを毎半期行っています。

嶺井:まだ存在しない事業に関しては、どんな方がどのように構想されるのでしょうか?

末藤:この後もフレームワークの話が出てくると思いますけれども、事業を始める時に、成功の蓋然性を高めるための1つのフレームワークを持っています。それをベースに主に南が米国など、先行市場を見ながら、社会にインパクトを与えられるようなスケールし得る事業がないかを探して、マネジメントの中で議論をします。そして、その事業を率いるメンバーと一緒に事業をつくっていきます。

嶺井:永見さん、いかがでしょうか?

永見:去年9月の決算説明資料に載せたコーポレートストラクチャーのチャートがあります。全社のレイヤーと各事業のレイヤーがあります。

常日頃からディスカッションはしていますが、エグゼクティブ・コミッティという、全取締役と一部の社外取締役、外部のゲストの方に来ていただいて外部環境のレビューから始まり、会社全体のポートフォリオの戦略や組織の戦略、財務的な戦略を1dayでディスカッションしてアクションを決めます。そういう棚卸しを3カ月に1回行っています。過去にゲストとして岩谷さんに来てもらったこともあります(念のためですが、インサイダー情報に該当する情報提供は一切しておらず、講演をしていただきました)。そこで決めたアクションを3カ月でエグゼクティブ・コミッティにまた持って来ます。それが全社レイヤーです。

その上で、バーチャルに各事業の取締役会を実施しています。ボードミーティングみたいなものです。そこでは各事業執行のトップレイヤーが集まって、事業としての成長戦略、それ以外のことも含めてアジェンダをディスカッションしています。

■ 成長戦略を伝える上での壁とは?

嶺井:でき上がった成長戦略を投資家中心にステークホルダーへ伝えていくと思います。特に投資家に伝える上での壁はどんなことがありますか?

末藤:先ほど永見さんからタイムラインの違いがあるというお話もありました。中長期的な成長を実現して、企業価値を上げていきたいという思いがある反面、目先の利益創出も大切です。

嶺井:投資家によっては、そういう期待もありますよね。

末藤:弊社の場合、成長ステージが違う事業がたくさんあるがゆえに、どのようにバランスをうまく取っていくか。事業が立ち上がるには時間がかかります。毎四半期の進捗をどう見せていくかは悩みます。

嶺井:四半期ごとにニュースがあるわけではないですからね。永見さんはいかがですか?

永見:印刷から始まって、今は広告や物流、それ以外の事業もあります。事業が進捗してくると「何の会社なのか?」と当然思われますので、去年9月に成長の方向性をしっかりまとめてプレゼンテーションしました。当時は統合報告書を出したことがまだありませんでしたが「統合報告書に会社の長期戦略をまとめるとしたら、こういう形だ」というものをプレゼン資料で作りました。今、それをベースにコミュニケーションするようにしています。ちゃんと説明すると「こういう会社なんだね」とけっこう理解してもらえるので良かったです。

嶺井:複数の事業を持っていることで壁が生まれていたんですね。

永見:その説明の難易度と理解されにくさが壁でした。最初に岩谷さんがナラティブという言葉を使っていましたが、Amazon創業者のジェフ・ベゾスが出していた毎年のレターが好きです。つらい時はつらいことを書いています。2000年のレターは「Ouch!」から始まっていて「事業は伸びているけれども株価が90%落ちた。ペット・ドットコムなどeコマース企業2~3社に投資したが、最終的にはいずれも事業停止となった」ということが書かれていました。

ジェフ・ベゾスとAmazonのストーリーはすごくきれいに見えますが、当時はかなりジグザグ感があります。ああいうものも含めて、温度感を高く伝えることは大事です。私たちもそういったプレゼンテーションを毎年ちゃんとしていこうと思っています。