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「非公開化は手段であって目的ではない」ベインキャピタル西パートナーが語る、上場ベンチャーが非公開化するメリット・デメリットとは

この記事は後編です。前編をまだお読みになっていない方はぜひ前編もご覧ください。前編はこちら(「ベインキャピタル × イグニス」の事例に迫る。PEファンドはどのように上場ベンチャーをグロースさせるのか

登壇者

西直史
ベインキャピタル パートナー

安岡徹
株式会社エニトグループ 執行役員グループCFO

嶺井政人モデレーター
グロース・キャピタル株式会社 代表取締役社長

■ 「PEファンド×上場ベンチャー」全般

嶺井:今、具体的な事例を伺ったのですが、PEファンドと組んで上場ベンチャーが非公開化を考えるに当たって、メリット・デメリットやどんな支援を得意とされているのか、どういった企業が非公開化に向いているのかという話をぜひ伺いたいと思っています。早速、安岡さんに伺いたいです。

安岡さんは、まさに未上場から上場後のベンチャーも経験されています。今は非公開化した会社のCFOをされていますよね。

安岡:ファンドも経験していますね。

嶺井:いろいろ経験されていますね。上場ベンチャーが非公開化することのメリット・デメリットをどのように見ていますか。

安岡:最近の流れだとは思います。言葉が若干ネガティブに聞こえるかもしれないのですがリセットというか。前向きにいうと事業と資本を再構築できるいい機会だと思いますね。ここ数年、日本のIPOマーケットは世界的にも極めて活況な状況でした。上場した会社さんも多くいらっしゃいます。その後、一昨年の末、去年の頭くらいからマーケットが非常に低迷しているという状況です。

上場された時は投資家の方々から「利益を出さなくてもいいんだよ。今はアクセルを踏めるだけ踏んでね。売り上げを拡大してPSRを」と言われていました。それが去年の頭くらいから急に「利益とバランスを取ってください」と言われ始めました。「そうなんだっけ?」と急におどおどしてしまうことは、どうしてもあると思います。

試行錯誤の中で、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)をやってみるけれども成果があまり出なかったり、CVCはうまくいったけれどもバリュエーションが跳ねなかったりという会社さんもいらっしゃいました。そのなかでも、すごくうまくやっている方も多くいらっしゃいます。一方で、例えば株価が低迷してしまう。高いバリュエーションで上場しているので、そこから下がってしまうとなると、なかなかストックオプションも出せません。

あとは採用という目線で上場すると変化が生じるなと思うのは、上場するとベンチャーとしてあまり見てくれないので、上場前とは違うバックグラウンドの方も多く入社されてきます。そういうことで悩まれていて、新しい施策や事業をしたいけれどもお金がかかる、人材がマッチしないということがあると思います。そういった時に前向きな意味で資本の再構築もできますし、事業の再構築もできます。それによって人も集めることができます。また違うことができると思います。

嶺井:イグニスやネットマーケティングの非公開化の際に、ベインキャピタルは追加出資をされていますよね。

西:そういったこともさせていただきました。

嶺井:上場して株価が低迷していると、成長資金をエクイティで取るのはなかなか容易ではないこともありますもんね。安岡さんが今おっしゃったリセットのタイミングで、座組によっては資金調達ができて成長投資もできるのはメリットかもしれませんね。

安岡:今回はOmiaiさんと一緒になりましたが、その買収資金としてベインさんに追加出資もしていただく予定です。こちらもCFO的にはすごく楽な話です。お金をかき集めなくても、ベインさんがお金をたくさん持っていらっしゃるわけですから。Omiaiの買収もベインさんと一緒に検討させていただいたので、そういう意味でスムーズにお金が出てきます。事業の加速にとって、フィナンシャルな面でもすごくプラスだと思います。

嶺井:西さん、メリットは他に何かありますか。もし追加があれば教えてください。

西:今の話にも絡むのですが、開示しなくて済む情報があるのは非常に大きいと思います。上場することで情報が外に出てしまうというデメリットがあります。あるいは、そのために準備をしないといけません。こういうところは、正直にいうと負担が大きいですよね。

嶺井:競合もいますしね。

西:また、情報を開示するタイミングは実際の事業とずれますよね。安定した企業であれば12月末までの数字を2月に開示しても問題はないと思いますが、特に上場ベンチャーだとおそらく2月に開示する12月の情報は、2月の情報とは全然違うということがあります。そのような場合、古くあまり意味のない12月までの情報を説明することは、さほど関係者にもメリットがなく、そのような開示がなくなるのは、非常にいいことのような気がします。

嶺井:次にデメリットはどんなことがありますか。安岡さんに伺った方がいいかもしれないですね。安岡さん、いかがですか。

安岡:正直あまりないと思います。非上場化のデメリットというか、上場していることのメリットになるのかもしれませんが、株がマーケットで流通していて流動性があるのは、会社にとってはメリットが大きいことだと思います。自分の株式を使って資本調達を行ったり、資本効率を向上させたり、デットの活用もやりやすいですよね。

例えば前職のビザスクだと普通株が上場していて流動性があったので、それを元にM&Aで海外の会社を買った時には普通株式に転換可能な種類株を出すこともできました。そういう意味では、普通株が流動性を持っているということは、それはそれですごくメリットだと思います。このように、マーケットが沈んでいるなかでも投資家への対応が成功しているような会社さんは、ひょっとしたら株価は以前よりも少し下がったかもしれませんが、流動性が確保されていて上場して資金調達の道もきちんとあるような会社さんであれば、その流動性をフルに活かして上場を維持するのは依然として有効なのだろうと思います。デメリットとは違いますが上場していることのメリットは、それはそれですごく大きいと思いますね。

デメリットをあえていうと、変わりたくない会社からしたら、非公開化はあまりやらない方がいいと思いますかね。

嶺井:ドラスティックに変わることもありますからね。経営陣が変わったり、経営方法も変わったりしますもんね。これはストラクチャー次第なところがあると思うのですが、例えばレバレッジをかけて買収した時に、その後、会社のデットの負担がすごく重くなる。そこの返済や金利負担が重くなるのは非公開化した時、ストラクチャーによっては起き得ますよね。

あと、再上場後、ファンドが株を売っていかないといけないなかで、オーバーハングのようになり、なかなか新規の投資家が入ってきづらいというのも起き得ると思います。非公開化というより、その後の再上場に向けた時のデメリットというか、ストラクチャー次第では懸念点があると思います。西さんはどう思われますか。

西:おっしゃるとおりです。前者に関しては結局、どういうキャピタル・ストラクチャーを組むのか。財務コベナンツ等、負債調達時に契約で課せられる契約条件を言葉を選ばずに言えばいかに事業成長のためのフレキシビリティを残しておく設計にするか。ファンドの腕の見せどころです。そういったテーラーメイドなことが得意なファンドもあれば、そうでないファンドもあります。この辺りはファンドによっても違うと思います。

今の話にも絡むのですが、非公開化のデメリットという意味でいうと、普通はどこかのファンドなりパートナーを見つけたうえで非公開化をしていきます。その時に、どうしても相性やスタイルの違いがあります。相性の悪いファンド、あるいはパートナーと非公開化をしてしまうと、事業のフレキシビリティを目的に行ったものの、結果的に逆になってしまうということも起こり得ると思っています。

誰がパートナーになるのがいいのか。良し悪しというよりは好みの問題だと思います。きちんと見たうえでパートナーを選ぶのが非常に重要だと個人的には思います。

嶺井:上場しても成果を出さなければ解任されるのは当然起きることですが、非公開化をすると、より分かりやすく起きていきますよね。大株主が1社で、その人の意思決定で変わるということが起き得ます。

安岡:経営権は株主間契約などでいろいろと担保できることがあると思います。そうは言っても新規事業をやる時に足枷になったり、取締役会でいろいろと揉めたりしてしまうということがあり得ます。いいファンドをパートナーとして選ぶのは重要だと思っています。

嶺井さんがおっしゃるようにオーバーハング懸念というか、再上場した後の株式をどうしていくのかについては永遠の課題というか、答えがありません。いっぺんに売ると、ファンドが売り抜けようとしているので、そんな株を買っていいのかという話になります。ファンドが残ってしまっていると、いつか売るけれども大丈夫かという話になります。そういうことがどうしても出てくるものです。ファンドでも何でも同じです。スタートアップが上場するうえでも同じような問題はあると思います。この部分をマーケットと対話をしながら、事業がこういう状況だ、ファンダメンタルの事業の価値がこういうものだから、こういうバリューがついているとうまく説得していく部分は非常に大事だと思っています。

嶺井:今回は特に非公開化でより成長を目指していくところまでをテーマにしていますが、当然会社は成長後の再上場もあります。今日は非常に多くの方々が参加くださっていて、そのなかには上場ベンチャーの役員の方も多くいらっしゃいます。その後のことも考えながら選択肢として議論いただけたらと思います。

次に3.どのような企業が非公開化を選択肢として検討するといいのでしょうか。

安岡:先ほどのメリットとかぶる点もあるのですが、スピードを高められるのは非公開化の選択肢として検討の理由になると思うんですよね。イグニスから独立したwithでいうと、一昨年の夏にイグニスをベインさんがTOBにかけました。去年2月に本業であるwithをスピンオフしました。本業をスピンオフするのはすごいですよね。そこでオーナーシップが変わって、経営陣が大幅に増強されました。先週には、ネットマーケティングさんを買収して、昨日には、もう会社分割を行っています。そして、Omiaiとwithを事業子会社とするホールディングス会社を創り、で、来週にはネットマーケティングの広告事業をMacbee Planetさんに売却します。普通だと1年半か2年くらいかけてやることを2週間半くらいの間に行っています。

選択肢として資本の再構築と事業の再構築をやりたい会社さんは、上場しているとここまでドラスティックなことはできないと思います。我々がいい事例になっていきたいと思っています。

嶺井:西さんは、いかがでしょうか。

西:非公開化は手段であって目的ではありません。何かを達成するための非公開化です。先ほど安岡さんがおっしゃったことにかぶると思うのですが、上場していると制約があってできないようなスピード感のあること、あるいは、新しいことをしていきたい時に非公開化が手段になり得ます。

もう一つは、ヒト・モノ・カネの「ヒト」の話ですが、既存の人材だけではなく全然違う人材を呼び込みたい会社。そういった人と話をするなかで新しい事業の仕方を考えていくといったことを受け入れる許容度のある会社。頭を柔らかくすることによって事業展開を考えていきたいという場合に検討してもいいと思います。

嶺井:それこそ壁打ち相手として、ということですね。

■ Q&A

嶺井:ここからは参加者の方から事前にいただいている質問をいくつかピックアップして登壇者の皆さんに答えていただきたいと思います。

早速、一つ目です。じげん平尾社長から、買収ターゲットの領域や割安・割高を見る指標、PMI手法について質問を頂いています。今回はPMIの手法について伺いたいと思います。どういったPMI手法だと成功確度が高いと思われますか。西さん、お願いします。

西:正直、成功確度が高い一般的なPMI手法があったら多分教科書になっていて誰でもできてしまうので、あまりバリューアップにならないというのが答えです。PMI手法として成功確度が高いものがないので、状況に応じて柔軟に対応できることで、我々はバリューが出ると思っています。

重要なのは会社ごとに違う手法を使っていくことです。我々は会社の方と一緒になって株式を100%買いにいきます。フルコミットでやるなかで教科書ではないテーラーメイドしたような打ち手を考えていくことができる余地があります。しかも、非上場なので時間も稼げます。逃げている答えのようで申し訳ないのですが、成功確度が高いと一概にいえるPMI手法はなかなかないというのが私の思いですね。

嶺井:なるほど。次の質問にいきますね。先ほど名前が出てきたMacbee Planetの代表の千葉さんからもご質問をいただいております。いただいている3つの質問のなかから2ついきたいと思います。「MBOをする過程で一番障害になることはどういったことでしょうか」。西さん、いかがでしょうか。

西:なかなか難しいのですが、障害というか大事なのは経営陣とMBOのパートナーをするPEファンドの間でMBO後の事業の方向性に対してのアライメントが取れることです。その部分が取れないと当然、話は進みません。そこが取れないなかでなんとなく進めてしまうと、非公開化した後でケンカになることがあります。その事業の方向性に対してのアライメントを取ることが障害というかチャレンジというか、一番大事なことだと思います。

あとは、アクティビストが入っているなどいろいろとテクニカルな障害はあるのですが、今日はそういうテーマではないと思うので、また必要があればということで。

嶺井:最後の質問です。PEファンドの協力を得た非公開化、それによる成長、再上場は新たな潮流として出てきていると思います。これは今度増えていくと思いますか。どのような見通しを安岡さんは持っていますでしょうか。

安岡:自分がそれに乗っかっていて自信があるので、当然増えていくと思っています。日本の上場市場は過去数年、若干歪んだ部分があったと見ています。そのなかで先ほど再構築の話をいたしましたが、せっかく事業としてすごくいいものを持っていらっしゃる会社でも資本市場で理解されることはなかなか難しいです。そこで成長の機会を失ってしまうのは国として、社会としてすごく損失です。

そこをベインさんはじめ解決する手段として非公開化をして、いったん整理をしてインセンティブのアライメントをもう一度たたき直す。事業の投資も再度ガッチリと行い、場合によっては新規事業も立ち上げるという形で新たに再上場を目指していくのは、すごくノーマルな考えです。状況に応じて、上場と非上場をうまく使い分けていくのはあるべき姿だと考えています。

■ 最後に一言

嶺井:最後に一言ずつ西さんと安岡さんにコメントをいただこうと思います。
西:今日は貴重なお時間をありがとうございました。1時間という短い時間のなかで全てを語れているとは思いませんが、我々のようなファンドがどういう形で上場ベンチャーの皆様のお役に立てるのか、少しフレーバーを感じていただければ幸いです。

上場が悪いということではなくて、一方で非上場が悪いことでもありません。使い分けを考えるなかでうまく資本市場を活用していく、上場・非上場の使い分けをうまくしていくことが今後の会社の成長のなかで一つの手法になると面白いなと思っています。ぜひ、そういったことも頭に留めながら事業運営をしていただけたらうれしいなと思いました。ありがとうございました。

嶺井:では、安岡さん、最後にお願いします。

安岡:本日はありがとうございました。自分の頭の整理にもなりましたし、すごくいい機会をいただきましてありがとうございます。他のファンドさんもやり始めていますが、ベインさんが今やられている上場ベンチャーの非公開化というなかで、我々も先駆けの一つかなと思っています。おこがましいですが、皆さんの目標になるような今後の事業運営を展開していきたいと思っています。いろいろな面でご支援を頂き、当社にも注目いただければありがたいと思っています。よろしくお願いいたします。

嶺井:西さん、安岡さん、そしてご参加いただいた多くの皆さま、今日はありがとうございました。