「上場スタートアップ」の持続的・飛躍的成長を支える―JIC・VGIとGCによる新たな取り組み
産業革新投資機構傘下のJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(以下、JIC・VGI)が2023年7月に400億円規模のファンド組成を発表しました。
官民挙げての支援も奏功し、上場スタートアップの数は飛躍的に増加。さらに、非連続な成長実現のためのM&A、海外展開等を実施する事例も増加傾向にあります。一方で、オーガニック成長に加え、非連続な成長に必要なリスクマネーの供給量は十分とはいえず、資金調達面において課題感をもっている上場スタートアップも少なくありません。
今後、当社グロース・キャピタル(以下、GC)とJIC・VGIが上場スタートアップ支援に相互に協力して取り組んでいくことを見据え、GC代表の嶺井政人が、JIC・VGIのプリンシパルの木村孝志氏、パートナーの末永聡氏と共に上場スタートアップの現状と課題、ファンド組成の背景と目的、そして、今後の戦略についてディスカッションしました。
■400億円規模の「オポチュニティファンド」を新設
嶺井:木村さん、末永さん、今日はよろしくお願いします。早速ですが、今回のファンドの概要を教えてください。
木村:JIC・VGIは、「我が国のイノベーションを促進し、国際競争力の向上と産業・社会課題の解決を目指す」というミッションを掲げ、その時々における産業・社会・市場課題解決を図る政府系ファンドとして活動しています。
今般新たに設立するオポチュニティファンドは、資本市場において顕在化する「市場課題」を捉えて解決することで、スタートアップの成長可能性を最大化するとともに、市場エコシステムを発展させることを目指しています。規模はファンド総額400億円で、その内、300億円を上場スタートアップへの投資にあてることで、上場スタートアップの持続的かつ飛躍的な成長を支えたいと考えています。
左から順にパートナー 末永聡氏、プリンシパル 木村孝志氏
嶺井:300億円はそれなりの規模ですね。JIC・VGIが上場スタートアップへの投資に動いた背景、目的についてはいかがでしょうか?
末永:昨今、上場後にM&Aや海外展開にチャレンジし、飛躍的な成長を実現しているスタートアップが増えてきました。我々JIC・VGIは、そういった成功事例をさらに増やしていきたいと思っています。
ただ、上場スタートアップを取り巻く「市場課題」も残っており、これを解決することが、スタートアップエコシステムの健全な発展につながると考え、今回、ファンドを組成しました。
嶺井:たしかに上場後、大きく成長を遂げる事例も複数出てきましたね。
■上場スタートアップの成長に欠かせない「長期視点」
嶺井:どのような点を「市場課題」として捉えていますか?
末永:上場を遂げたものの、機関投資家などの「長期視点で企業価値向上に伴走する投資家」の投資対象に入りづらい企業が多いといった点は課題だと認識しています。
嶺井:なるほど。私も上場スタートアップの経営陣とディスカッションする中で、その点はよく相談を受けますね。たとえば、経営陣は5~10年と長期視点で経営の意思決定をしているにもかかわらず、オーナーである株主が短期視点の場合、短期業績や都度のニュースで株価が動いてしまい、たとえば短期的には業績悪化につながるものの、長期では大きく花開く可能性のある成長投資といった「長期視点でのリスクをとった意思決定」がしづらいといった課題に直面している企業は少なくありません。
JIC・VGIとしては、そうした課題に対してどのくらいの時間軸で向き合うことを想定されているのでしょうか。
末永:我々は、基本的には3~5年、場合によってはそれより長くご一緒しようと思っています。
嶺井:上場後のグロースステージにおいて、そのスパンで投資を行うペイシェント・リスクマネーは完全に不足しているのでとてもありがたいです。具体的にはどのような方針で投資を実行していかれますか?
木村:まず、我々JIC・VGIは、上場スタートアップがオーガニック成長を着実に遂げるだけでなく、我々の投資資金を用いて非連続な成長を実現することで、会社が有する成長可能性を最大化することを期待しています。
対象とする産業領域は特段制約を設けておりません。資金使途としては、たとえば、
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①M&Aや事業買収による成長
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②創薬パイプラインの拡張(ライフサイエンス領域)
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③サービス・事業のバンドリング
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④バリューチェーン拡張・補完
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⑤商圏・地域補完(Go Globalを含む)
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⑥組織拡張
等、非連続な成長を遂げるために活用されることを想定しています。
出資方法、出資金額、出資比率は個別案件ごとに判断していくことになりますが、第三者割当増資や転換社債、新株予約権等による10%強の出資をイメージしています。
嶺井:オーガニックな成長がベースにあり、そのうえで非連続な成長の可能性がある会社が対象ということですね。
木村:おっしゃる通りです。今後さらに成長して上場ユニコーンを目指される会社、ユニコーンからさらなる成長を目指される会社に活用いただきたいと考えています。
■上場スタートアップの成長のカギを握る「リスクマネーの供給量」と「好循環」
嶺井:この取り組みを行うことで、どのような成果を期待していますか?
末永:飛躍的な成長を実現する上場スタートアップの成功事例を増やし、それが呼び水となることで、上場スタートアップへのリスクマネー供給の総量が増え、成長の好循環が生じることを期待しています。
嶺井:ぜひその好循環を実現したいですね。これまで「上場スタートアップの成長こそ日本の大きなポテンシャル」というメッセージを発信し続けてきた我々としては、こうやってJIC・VGIが「上場スタートアップには大きなポテンシャルがある」と捉え、投資に入られることが本当にうれしいです。
グロース・キャピタルのこれまでの取り組みをどのようにご覧になっていますか?
末永:ファンド設立に際して市場課題を整理するなかで、グロース・キャピタルが公的な研究会、委員会での政策提言、産学連携しての共同研究を実施されてきており、「上場スタートアップ支援」のフロントランナーとして活動されてきた点に注目してきました。
また、これまでのディスカッションを通して、上場スタートアップのポテンシャルの高さや課題意識を共有し、ともに上場スタートアップのエコシステムを発展させていけると感じています。
嶺井:ありがとうございます。JIC・VGIの皆さんと一緒に、上場スタートアップのエコシステムを盛り上げていけることを大変うれしく思っていますし、心強いです。すでに上場スタートアップのポテンシャルや抱える課題の整理などのディスカッションや、飛躍的な成長を目指す上場スタートアップの紹介といった取り組みをはじめていますが、引き続きよろしくお願いします。
木村:こちらこそよろしくお願いします。一緒に上場スタートアップを盛り上げていきたいですね!
嶺井:そうですね! 飛躍的な成長を遂げる上場スタートアップを多数支援してまいりましょう! 今日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
■プロフィール
木村 孝志 プリンシパル
2007年にみずほ証券株式会社に入社し、グローバル投資銀行部門にて、14年超の期間にわたり上場企業向けに事業ポートフォリオ戦略、資本戦略、事業買収・売却戦略等、未上場企業向けにレイターステージ/IPO/ポストIPOの資本政策等のアドバイスを提供。2012年から2017年の間は、米国みずほ証券にて投資銀行業務に従事。みずほ証券では、金融、フィンテック、社会インフラ領域、産業用機械・テクノロジーセクターを主に担当。2021年9月よりVGI参画。
慶應義塾大学理工学部管理工学科卒
慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学(経営工学)修了
末永 聡 パートナー
2009年に弁護士登録後、Allen&Overy外国法共同事業法律事務所及び佐藤総合法律事務所において、金融、M&A、事業再生/倒産、訴訟等の幅広い企業法務案件に従事。2017年に産業革新機構にインハウスカウンセルとして入社後、リーガルの観点から投資実行及びバリューアップをサポートしたほか、一部投資案件については投資チームとして投資業務に従事。2020年よりキャピタリストとしてVGIに参画。
慶応義塾大学法学部法律学科卒、慶応義塾大学法科大学院修了(J.D.)、弁護士