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「上場バイオベンチャー」の大きな伸び代と、直面する課題―ADLとGCがタッグを組む理由

この度、当社グロース・キャピタル(以下、GC)は、135年超の歴史を有する世界初のコンサルティング会社であるアーサー・ディ・リトル(以下、ADL)と共同で、上場バイオベンチャー支援を開始しました。

官民一体となって、バイオベンチャーの支援が行なわれるなか、上場する日本のバイオベンチャー数は増加の一途をたどっています。しかし、その一方で新たな課題が可視化されつつあるのもまた事実です。それは、上場後のバイオベンチャーが直面する、資金面およびケイパビリティの壁であり、そうした課題の解決に挑んでいるADLの花村遼氏と小林美保氏と共に、GC代表の嶺井が、上場バイオベンチャーの現状と課題、そして解決策についてディスカッションしました。

■日本の上場バイオベンチャーの「現在地」と「伸びしろ」

嶺井:花村さん、小林さん、本日はよろしくお願いします。早速ですが、お二人は日本の上場バイオベンチャーの現状について、どのようにお考えでしょうか。

花村:よろしくお願いします。経済産業省が力を入れている「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」の後押しもあり、日本の上場バイオベンチャーの数は堅調に推移しています。今後は、売上が数千億円、時価総額は数兆円というアメリカのバイオテックジャイアントをベンチマークにして、いかに世界を代表するような企業をここ日本から輩出するかがポイントとなってくると考えています。

花村 遼(はなむら・りょう)

アーサー・ディ・リトル・ジャパンのパートナー。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒業後、2011年にアーサー・ディ・リトルに参画。2020年にパートナーに就任。製薬・医療機器・バイオ・消費財・化学素材・官公庁のクライアントに対して、経営戦略・事業戦略・研究開発・イノベーション戦略等のコンサルティング業務に従事。著書「新型コロナ収束への道」(日経BP)。経済産業省 産業構造審議会バイオ小委員会の委員やAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)主催の再生医療・遺伝子治療の関連事業の評価委員などを務める。日経新聞Think!のエキスパート。

嶺井:小林さんはいかがでしょうか。

小林:2002年に東証マザーズ(現・東証プライム)に上場したそーせいグループ、同じく東証マザーズ(現・東証プライム)に2013年に上場した東京大学発のペプチドリームといった日本を代表する上場バイオベンチャーの登場によって、業界として目指すべき方向性が明確になりつつあると感じています。世界的に見ても、バイオ・創薬は伸びしろの大きな領域ですので、魅力的な企業を1社でも多く生み出せるよう、当社としても引き続きコミットしていきたいと思います。

小林 美保(こばやし・みほ)

アーサー・ディ・リトル・ジャパンのマネージャー。慶應義塾大学薬学部にて薬剤師免許を取得後、三菱総合研究所にてコンサルティング業務に従事し、2021年にアーサー・ディ・リトルに参画。バイオ・化学素材・官公庁等のライフサイエンスのライフサイエンス領域における経営戦略・事業戦略・パートナリング戦略等のコンサルティング業務に従事。特に再生医療・遺伝子治療等の新規モダリティに関連する知見を豊富に持つ。
技術情報協会主催講演「再生医療の製造に関する世界のエコシステム動向と日本の方向性」等の演者も務める。

■ベンチャーは「上場前」と「上場後」で異なる課題に直面する

嶺井:いま名前のあがった2社のように日本のマーケットにフィットしたビジネスモデル、M&Aを活用した成長事例がさらに増えていけば、日本の上場バイオベンチャー業界の底上げにつながりますね。とはいえ、上場前とは違った課題、壁に直面する上場バイオベンチャーも少なくありません。上場後の課題についてはいかがでしょうか。

花村:嶺井さんがおっしゃるように、バイオベンチャー特有の課題は、上場前と上場後ではずいぶんと変わってきます。たとえば、上場前であれば、自社が持っているサイエンスやシーズの価値を示すために、動物やヒトでPoC(概念実証)を行なったり、大手のファーマとのパートナーリングを模索する、あるいは資金を確保するためのライセンスアウトといったアクションが必要になります。

一方、上場後のフェーズにおいては、製品上市に向けた臨床試験を行なうだけでなく、商用製造、サプライチェーンの構築、マーケティング方針の策定、病院インフラの確立、薬価のプライシング交渉など、複数のテーマを同時に検討していくことが求められます。そうした多岐にわたる業務を一気通貫で遂行できる人材、ケイパビリティの確保というのは、多くのバイオベンチャーが上場後に直面する課題の1つだと思います。

小林:上場前と比べると、上場後にはステークホルダーの数が一気に増えることになりますが、そのことによって自社の事業計画の不確実性が高まる点にも注意が必要です。

たとえば、臨床後期に入ってくると、臨床試験の遂行・製造について、一部外注したり、他社と連携して進めるケースが一般的です。その結果として、パートナー企業の事業戦略等に自社の開発の進捗が左右されてしまうことも少なくありません。実際、上場バイオベンチャーの中で、製造委託先での臨床がスムーズに進まずに、開発が2年、3年と遅れてしまったケースや、進行中の臨床試験が競合薬の進展や新たな有害事象の懸念などはなかったものの導出先のパイプライン優先度見直しにより停止することになってしまったケースもあります。

嶺井:たしかに、アライアンス先の大手製薬メーカーの方針変更によって開発がストップしてしまったケースは、過去にも複数ありましたね。

■なぜ、ADLとGCはタッグを組んだのか

花村:嶺井さんは、上場バイオベンチャーの成長における課題をどのようにご覧になっていますか。

嶺井:バイオベンチャーが上場後も研究開発を続け成長していくには、適切な評価を受けながら継続的に資金調達を行なう必要があります。しかし、日本においては、専門性の高い領域の技術に知見のある機関投資家の層が薄く、結果として技術評価が難しい個人投資家をメインの投資家層とせざるを得ないジレンマを抱えています。また花村さんに挙げて頂いた業務領域が多岐にわたる中で少数精鋭で事業を行っている上場バイオベンチャーにおいて、適時・適切に人材、ケーパビリティの確保を行うことは容易ではないという点も大きな課題だと思います。

そういった状況に危機感を覚えたこともあり、今回、当社が行なっている資金調達の支援だけでなく、ADLの皆さんと成長支援をセットで提供する体制を構築しました。お二人には、ADLが得意とする成長支援についてお聞かせいただければと思います。

花村:私からは2つほどご紹介します。
1つ目は、嶺井さんからもご指摘のあった「投資家対応」のご支援です。当社は、上場バイオベンチャーが保有するサイエンスやテクノロジーのポテンシャルが適切に評価されるためのノウハウ・方法論を多数有しているだけでなく、世界中のネットワークを活用することでグローバルな動向を踏まえたうえでの競合分析・提案等を行なっています。

2つ目は、先述した「ケイパビリティの壁」についてです。そもそも先端医療領域の製造、供給体制の「正解」は誰も持ち合わせていないケースが少なくありません。ですから、私たちとしても机上で戦略を立てることはせずに、一定の期間中に入らせていただき、一緒に汗を流して、ゴールから逆算しながらグランドデザインの構築と実行の支援をしています。

たとえば、薬価のプライシングについていえば、先端医療製品に関しては前例が乏しいものも多くあります。製品の特性を把握しながら、事業価値最大化のためのターゲット価格の設計、誰を巻き込みどういう手順で規制当局とコミュニケーションしていくのがよいのかのコミュニケーション戦略など、知見とネットワークの蓄積があります。また、製造・サプライヤーマネジメント領域でいえば、どこでどう製造するのがいいのか、自社製造に切り替えるタイミングはいつが最適か、サプライヤーマネジメントをどのように行うのがいいのか、プランBも含めた最適なオプションの提示が可能です。

また、資金調達や導出局面においては、DD(デューデリジェンス)のプロセスが走ることになりますが、当社はDDを実施する側としてのノウハウを有しているため、DDを受ける側がどのような点に注意すべきかといったサポートをすることができます。

■適切なプライシングとオペレーションマネジメントの要諦

嶺井:薬価については、大きな流れとしてはダウントレンドにあるようにも感じられますが、上場バイオベンチャーとしては適切な薬価がつかなければ、研究開発を続けることが難しくなってしまいます。製品が適切に評価されるためにはどのようなアクションが必要になりますか。

花村:おっしゃるように、全体としては薬価を下げる動きがあるのは事実です。ただ、再生医療、遺伝子医療といった先端医療領域においては、国を挙げてしっかりとフォローしていこうという機運が醸成されつつあります。また、SaMD(プログラム医療機器)やDTx(デジタルセラピューティクス)といったデジタル分野においては、当局のほうでもスピーディに対応されていることもあり、世界的にも日本にアドバンテージのある状況となっています。

個別の薬価戦略については、疾患・製品・規制上の区分などケースバイケースのため一概に言うことは難しいのですが、革新的な製品に対するイノベーションの価値を評価する制度設計を業界全体として打ち込んで実現していく必要があると思っています。

大きな注目を集めた厚生労働省主催の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」でも、「日本市場の魅力度を高める薬価制度」の中に「革新的医薬品に関する新たな薬価制度の検討」の文言が明確に書かれました。今後、具体化に向けた検討が始まるものと思いますが、そのような行政の動きを後押ししていくと同時に、複数の政策オプションをにらみながら、重層的な薬価戦略の構築が求められるようになるでしょう。

小林:私からは、製造・サプライヤーマネジメント分野の支援についてご説明したいと思います。たとえば、上場バイオベンチャーが新しいモダリティで製品を開発するケースでは、人員的にも工数的にも、アクセスできる製造委託先、サプライヤーの数は限られます。多くても3社、4社の中から選ぶケースが大半ではないでしょうか。

しかし、長期的視点に立つなら、大手製薬会社がリスク回避の観点から、優先的、かつ継続的に依頼するプリファードベンダーを決めているように、上場バイオベンチャーにおいても、「アクセスできた2社、3社の中から選んで、一度お願いしてみて考えよう」という発想ではなく、最初からベストな連携先を探すという発想が求められます。

その点、当社には長年にわたって蓄積してきた知見・データがあるため、通常アプローチが難しい外注先を探すお手伝いに加え、ゴールから逆算してサプライチェーン全体にとって最適な提案を行なうことが可能です。

嶺井:ケイパビリティの限られている上場バイオベンチャーにとって、時間を短縮するという観点からも、リスク回避という観点からも非常に重要なポイントですね。このような上場バイオベンチャーの経営という観点から、押さえるべきポイントについてはどのような点が挙げられるでしょうか?

花村:上場バイオベンチャーは多数の複雑な課題に同時に取り組む必要があり、グランドデザインを描きながら個別で重要な課題の優先度をつけて対処していくという、非常に難しいマネジメントが求められると言えます。

そのためには、①製造・開発・薬事など各機能領域で深い知見を持つ専門人材の確保と、②各機能の概要を把握し、プロジェクト全体をオーケストレイトし推進できる人材の双方が必要となります。①の人材は採用や専門的なコンサルタントの力を借りることで解決することは出来るでしょう。一方で、②の人材は求められるケイパビリティが多岐に渡るため確保が難しい。経営状況を理解し、開発プロジェクト全体を俯瞰的に見つつマネジメントを行いつつ、クリティカルな課題を同定して即座に対処する推進力を併せ持つ人材です。

多面的な知を持つ戦略コンサルタントに期間限定でご依頼頂くことも多く、経営と技術の深い知を持つ弊社ならではの価値を出せるポイントだと思っております。

■【支援事例】抗体創薬の有望性を可視化する

嶺井:最後に、ADLと当社で取り組んだ、抗体医薬品の創薬事業、創薬支援事業を手がけるカイオム・バイオサイエンスの支援事例について、小林さんにご紹介いただきたいと思います。

当初、GCで個人投資家向けIR支援を行なっていましたが、「抗体を過去のモダリティと考える風潮が一部出てきているなかで、適切に抗体創薬の価値を伝えていきたい」というカイオムさんの思いに対して、共同で取り組んだ事例になります。

小林:カイオムさんへの支援としては、大きくは2つことを実施しました。
1つ目は、カイオムさんが開発している「抗体」が、10種類程度あるモダリティのなかで、どれくらい期待されているモダリティなのかについての調査・整理です。

実際にデータを見たところ、世の中の捉え方とは違い、抗体医薬品が医薬品の市場を牽引している実態が見えてきたり、一製品あたりの売上高も圧倒的に大きいことなどが見えてきます。そういった分析結果を可視化し、視覚的にわかりやすい形で提示するご支援をしました。


カイオム・バイオサイエンス 事業計画及び成長可能性に関する事項 P8-9

2つ目は、カイオムさんが有する“Tribody”という技術の有望性について、他の抗体医療品と横比較するという分析です。具体的には、世の中に発表されているさまざまな論文を細かく読み解き、比較項目を抽出して、現在の戦況の中での当該技術の位置づけを投資家様にご理解いただけるよう図表にまとめました。








カイオム・バイオサイエンス 事業計画及び成長可能性に関する事項 P53-60

嶺井:私自身、プロジェクトをご一緒させていただくなかで、2カ月間という短期間にもかかわらず、抗体創薬の有望性、さらには“Tribody”の特徴・優位性が、わかりやすく、スピーディにまとめられていくのを目の当たりにして、大変勉強になりました。

ここではカイオムさんの事例をご紹介しましたが、今後も、ADLとGCとがタッグを組む形で、世界を代表するような上場バイオベンチャーを日本から生み出すための活動を行なっていきたいと考えています。花村さん、小林さん、これからもよろしくお願いします!

花村・小林:よろしくお願いします!