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「失敗の要因こそクリアに発信」ディープテック企業が大切にしている透明性と誠実さ

この記事は後編です。前編をまだお読みになっていない方はぜひ前編もご覧ください。

■テーマ2:どの投資家と、何を対話すべきか?

野村:「どの投資家と、何を対話すべきか」が2つ目のテーマです。テーマ1で出てきた辛い状況の中でも、話を聞いてくれる投資家とどのような視点で話しているのか。その上で、何を対話すべきか。今、見えている希望を見せていただかないと、ここでセッションがシャットダウンされて終わるんじゃないかという危険があります。橋元さんから始めて、野﨑さん、紅林さんの順でいきましょうか。

橋元:エクイティ調達に限ってお話をすると、やはりお金がかかるビジネスなので、一度に調達する額も高額になります。数十億から100億単位になります。そうすると、やはり我々のビジネスや取れるリスクをきちんと理解してもらって、納得の上で投資をしていただくためには、何度も同じことを繰り返しどういうビジネスなのかを伝えます。良いことも悪いことも含め、どういったリスクがあるのか。どういったメリットがあるのか。

一度説明して終わりではありません。今、四半期ごとに投資家の皆さんと1on1で面談をしています。まず我々のビジネスを説明して、四半期ごとのアップデートをまた説明して、内容によっては繰り返し同じことを説明することが必要になります。とにかく理解いただくしかないんですよね。それに、もし弊社のベンチマークとなる会社があれば、どう違うのかを相対的に理解いただけるかと思いますが、現時点ではまだ存在しません。ispaceさんと比べてどうなのかと聞かれることもないですし、そういう説明を我々もできません。

最近、第1四半期に打ち上げた衛星に不具合があり、減損処理を行いました。不具合の原因と今後どういったかたちでリスクを低減していくのかをご説明しました。包み隠さず、正直にお話するしかないなと思っています。

野村:答えにくいかもしれない質問をさせていただきます。何回も説明していると、聞いてくれる投資家は投資行動につながるかもしれません、というお話に聞こえました。一方でよくあるのは、上場した後は四半期ごとのミーティングが30件入っているのに、それが25件になり15件になり、という話もあるような気がしています。どのような投資家が継続的に残っていますか。見分け方はありますか。

橋元: どうなんでしょうか。まだ上場して1年足らずなので、四半期ごとのミーティングもまだ2回目3回目だったりするので、まだ興味を持っていただけています。我々と同じようなビジネスをやっている会社があるわけではないので、どちらに投資するかという選択肢もありません。もっと増えてくると、選択肢から外れていくこともあるのかもしれないですが、幸か不幸か我々しかいないということもあって、まだ興味を持っていただけている感じがします。

■宇宙事業に関心を持ってもらいたい

野村:野﨑さんはいかがでしょうか。

野﨑:橋元さんの話を面白いなと思いながら伺っていました。やはり似てるところはあります。単純な話で、宇宙をちゃんと信じて、いずれ大きな波になるということを信じてくれる投資家と、まだそこは見られないという投資家にきれいに分かれている状態です。宇宙事業に対して投資できると思っている人はまだ限られていると思います。株主にも共通しているところがあるかもしれません。

我々の例で言うと、例えば上場前のいわゆるインフォメーションミーティングでは、機関投資家さんとセッションをやりますが、実は我々は多くて4回ぐらいやっています。その時に話をしていた20人から30人ぐらいの投資家は、上場後もきちんと入っていただいています。

コアな人はいるんですよね。そういう人たちは必ずしも四半期でミーティングしなくても、ちゃんと見てくれている人がいます。ロングタームな付き合いをせざるを得ない。まだまだ裾野はそんなに広くないので、限られた人たちを大事にしなくてはいけないという厳しい現実があるのかなということを今、聞いていて思いました。

野村:ありがとうございます。今の話は本当に同意です。実はうちの会社も大事にしています。個人でも機関でも、僕はあまり関係ないかなと思っています。コアなファンを作らないといけない。私の会社も裾野が広い会社ではないので、どうやってコアなファンを作っていくか。これは多分、一時的にバーンとやって注目が集まったという世界よりは、苦しい時も良い時も、富める時も病める時もではないですが、とにかく誠実に情報発信をしていく。

脱落していく人もいっぱいいるんですよ。でも、すぐにそこを見るんじゃなくて、誰かが聞いていてくれるはずだなと思いながら発信しています。すみません、すごく共感したのでモデレーターなのにコメントしてしまいました。

野﨑:本当にその通りだと思っています。野村さんがおっしゃったように、良くない時も含めてちゃんと見てくれているかは大事だと思っています。投資家と何を対話すべきか、どう対話すべきかという時に、やはり透明性、オープンであることは当たり前ですが、誠実であることを大事にしています。我々の場合、mission 1で着陸に失敗した時に何をコミュニケートするか。とにかく早く自分たちの失敗の要因を、通常の宇宙のミッション以上に、CTOが事細かく開示をしてさらけ出したんです。

自分たちの後に続く企業に参考にしてくれという勢いで開示をしていきました。やはりどうもちょっと見通しが悪いな、よく分からないなと思われてしまうとファンが離れてしまうと思っていましたので、失敗の要因などはとにかくクリアに出していくスタンスです。

野村:大事ですよね。もう一個、突っ込ませてください。すごく悩んでいるのが、透明性を担保して開示をしたいんですけど、パートナーがいる場合はどうでしょうか。パートナーとの関係性上、喋りにくい時もあります。そういうことはないでしょうか。

野﨑:いろんな方々と一緒にやっているのでありますね。ispaceでプロジェクトマネジメントをしていますが、全部の要素技術を自分たちで開発しているわけではありません。我々が設計して、世界中のベンダーに発注して、インテグレートしてやっています。最後の責任は我々にあるので、自分たちの責任だと割り切って言っています。

■ディープテックだからこそ大事な透明性

野村:私も工夫の余地があるかなと思いました。ありがとうございます。紅林さん、いかがですか。

紅林:出てきたキーワードとして透明性や誠実さは、ディープテックだからこそ重要だと思っています。正直、サイエンスや技術を深く分かっていただけているわけではないので、出し方一つで相手の印象を変えることができるわけです。悪い言い方をすると、出し方によって印象コントロールができてしまいます。それも含めて、誠実であることが大事だと思っています。

あとは期待値をどうコントロールしていくのかです。 一時的に株価をボーンと上げたいと思う瞬間がなくはないですが、それをやってしまうと投資家との信頼関係が崩れてしまいます。中長期的に考えると会社のためにもならないし、株式市場全体のためにもならない。同業で誰かがそういうことをしてしまうと、業界全体の印象を悪くしてしまうところも含めて、ディープテックは本当にわかりづらいんだろうなということがわかっているからこそ、やはり誠実でないといけません。そこが本当に大前提です。

その上で、本当に何を話すべきかというのは、お相手の顔色を見ながら、反応を見ながら、より深く技術やサイエンスについてお話をさせていただいたり、話す角度を変えたりすることに気をつけています。

野村:共感するのは、ディープテックだからこそ透明性が一番大事だということです。印象操作みたいなことは、できてしまうこともあるけど、してはいけない。

紅林:絶対に駄目です。

野村:誰のためにもならないですね。すごくエッセンスが詰まっていた気がします。開示で、しつこくファンを作っていくことが我々にできることです。

ちょっと思うことがあります。これはディープテックの課題でもあります。大手企業は、私個人はファーマなどのプレゼンを見たりしますが、各社の中に安定事業と攻めている事業、言ってしまえばディープテックライクな事業があると思っています。「新しいプロジェクトを始めた」みたいな開示はありますが、あれはどうなったんだっけ?みたいなことがあります。私がセルサイドアナリストをやっていた時に感じることがありました。

他のセクターでも意外にここは見られています。本業がいいならいいじゃないかと思う投資家もいると思いますが、あの時やった新規事業はどうなったのか?とアナリストとして感じていました。先ほどの話のように透明性を持ってファンを作っていく。これが大事なことだと聞きながら思っていました。

■テーマ3:今後のファイナンス戦略(総括)

野村:3つ目のテーマに行きます。言えることと言えないことがありそうな、ファイナンスです。野﨑さんが上場してから2回ファイナンスをしているとおっしゃったのが驚きでした。戦略やどのような考え方でやってるのか。ファイナンスをする時のコミュニケーションの回数を多くするのであれば、とりわけ大事な気がしているので、教えていただきたいと思います。野﨑さん、紅林さん、橋元さんの順番でお願いします。

野﨑:ファイナンス戦略は本当に難しいんですね。ディープテックなので、とにかくお金がかかるというのは本当にしょうがないことです。あともう一つは、最初の初期的なR&Dの中でのPL上の損は非常に大きいので、資本を食ってしまうわけです。

相当なバッファーを持っておかないと本当に危ないなというのがあります。特に上場してしまうと、債務超過のセンシティビティとか、銀行からお金をとにかく借りる状態になってくると、ますますそういうことがあったりします。そういう意味でも、エクイティの厚さも大事だというのを、とにかく四半期ごとに投資家に言いまくっています。サプライズのネガティブ調達にならないように、ここは申し訳ないのですが期待値調整をします。とにかくお金と資本が必要だからどの辺にエクイティが来そうかみたいな感覚は、当たり前ですがもちろんインサイダーには気をつけて、期待値のコントロールはするようにしているというのが第一です。

■より個人投資家にアクセスしたい

野﨑:自分たちが今とにかく大事にしているのは、ロング投資家と少しずつでもいいから関係性を良くしていこうと。ロングではない人たちにももちろん、当然のことながら一生懸命やっていますが、足りていないところとして、大型の資金調達が必要になった時に大口で出してくれる人を確保したい。とにかく頑張って、自分たちでリアクティブではなくプロアクティブな投資家へのコンタクトをどんどん増やすことを機関投資家周りでしているというのが実態です。

もう一つ、実は一番もっとアクセスしたいのは、当たり前なんですけど個人投資家だと思います。それが日本で上場しているメリットです。証券会社が間に入ることで、証券会社がリスクを取りづらくて、個人投資家に売りにくいというところが出てしまっています。何かというと、我々も個人投資家をもっと取りたいのですが、まだ自分たちの開発の状態で、実は色々な理由で証券会社の方々がかなりここはコンサバティブだというのは正直あります。そうすると、ファイナンス評価が制限されてしまうので、取りにくいという状態です。

いろいろな調達手法がありますが、個人の方々にどうやってリーチしていくのか。我々も愚直に今、いろいろと研究して追求しようとしています。

野村:最後のところが分からなかったので教えてください。個人に割り当てるようなファイナンスを、どうやって証券会社を通さずにするのでしょうか。あるいは証券会社を説得するのでしょうか。

野﨑:どちらもです。例えば、資本ではなくなってしまいますが、クラウドファンディングは個人の方々のお金を使える一番良いエリアだと思います。ただ金額が小さすぎます。認知しにくいのですが、個人の方々から、これもエクイティではなくなってしまいますが、私募債で取れる方法がないかなど、いろんなかたちを検討しています。

野村:ありがとうございます。もう一個、どうしても聞きたくなってしまいました。ファイナンスの期待値コントロールは大事だと思っています。難しいと思うんです。いつエクイティするか、ある程度期待値をコントロールするのは、聞くだけで難しそうです。エクイティをやった時に結果として、思ったよりもオーバーリアクトしないというか、マーケットがそうだったよねと思うような、株価動向に踏み込むと難しいんですが、このあたりの感触はいかがでしょうか。

野﨑:全部の因果関係を詳細に分析できてるわけではなく、正直にいうと、いろんな方々がいます。機関投資家の方々でバリューションに対してネガティブな方も当然いらっしゃいます。ただ、実は株価的にはそれほどふれていないです。なぜかというと、8割ぐらいを個人の方々が持っている現状がありますし、我々もたくさんのお金で何をするのかを説明するようにしています。

例えば、直近の調達では、お見せしたマイルストーンでいうと、今回のお金を取ることによって、2026年のミッションまでの開発資金を完全に確保することができます。もちろん絶対に失敗が今後もないとは言えないので、失敗をしたとしても、ちゃんとつながっていくように見えること自体はポジティブです。あとは週末を挟んで投資家の方々にメディアの記事も読んでもらって、知ってもらって、ドキドキしながら週明けの株価を迎える。週末にしっかりと消化時間を作ることは大事にやっています。

野村:参考になります。透明性の話が大事だと思いました。確かに我々もお金を取る時に、ぼやっとこんな感じというので取ってしまいがちですし、そういう開示でも許されているところがあります。でも今、野﨑さんがおっしゃったように、2026年までのプロジェクト分を確保できるというのは踏み込んでいますよね。でもこれができると、確かに安心材料になり、納得感がありますよね。

野﨑:正直に言うと、だから許してねではないですが、申し訳ないけどお金が必要で、ダイリューションさせてしまうことも起きてしまいますが、本当に必要な自分たちの事業のために、向こう5年10年見たときにプラスだから取っています。そこをとにかく訴えながらやっています。当たり前のことですが、シンプルにそういうことをやっています。

紅林:弊社はバイオベンチャーとしては珍しく4製品を上市できていて、今期は40億円程度の売上げが想定されています。そういう中で、ここ数年間のバイオベンチャーの株価の動向を見ていると、適切と思われる株価形成に向けてファイナンスを終えていくことが大事だと感じています。マーケットと弊社の状況も見つつ、上場会社のキッズウエル・バイオとしては、少なくとも株式市場から直接のファイナンスは圧縮していく方向でいます。

この1年間、パートナー各社さんと議論をさせていただきながら、キャッシュコンバージョンサイクルを圧縮、短縮させていただきました。ワーキングキャピタルもだいぶ減りましたし、調達しないといけない資金も大きく減らしているという状況の中で、調達を終えてダイリューションを止める。それからオーバーハング懸念を減らしていく。それが適切な株価形成に向けて、今の株式市場においては大事だと思っています。

もちろんまだ成長投資が必要な部分もあるので、そこの部分については提携先のパートナーから入れていただくことを想定しています。株式市場からの調達は下げていく。2024年4月に細胞治療の事業を分社化しました。こちらの事業についてはまだまだ研究開発費が必要ですが、子会社として直接提携先や投資家から取っていくかたちにしていくことで、マーケットに対する見せ方を変えていく必要があります。おかげさまで金融機関、銀行からの支援も受けられていますので、そこを厚くしていくというところを含めてバランスを変えていこうと思っています。

■資金調達はエクイティとJAXA助成金が鍵になる?

野村:上場している身としては、株式市場から調達しません、というのは難しいですが状況はよくわかります。それが既存投資家さんのためになるというのもわかるので、納得感を持って聞かせていただきました。次に橋元さん、お願いします。

橋元:今期は衛星を4基を打ち上げる予定です。来期以降は新しい工場もできますので、年間6基もしくは8基打ち上げようとしています。決算説明資料等では1基あたりの製造費用と打上費用の合計が平均10億円という言い方をしていますが、打上に使うロケットによっては十数億円かかったりするわけです。そうなってくると大きな資金が必要となります。今考えているのはエクイティの調達だけではなくて、もう一つ大きいのが助成金です。国の助成金、JAXAの宇宙戦略基金があり、数百億円単位のものがあります。

これがもし使えれば、先行して支出して、その後に助成金が入ってくるかたちになるので、その間を埋めるのは借入で埋めようなどと考えられます。エクイティと助成金と借入、このあたりをどう組み合わせていくかが今後の課題になっていきます。

野村:面白いですね。ファイナンス戦略といった時にマーケットだけではないというお話ですね。JAXAの助成金はそんなにあるんですね。うちのセクターからするとかなり羨ましいです。

紅林:そうですね。羨ましいな。

野﨑:これは大きいですね。我々も全くそこは一緒です。JAXAの動きは、岸田政権下では一番大きな宇宙の追い風になったなと思っています。海外の投資家も非常に注目している助成金で、宇宙戦略基金はかなり大きいですね。10年間で1兆円の基金です。

紅林:そんなにですか。すごいですね。

野村:このまま次のテーマに突入したいところなんですが、実はもう1時間経ってしまいました。今日のところはこれで終わらせていただきたいと思います。僭越ながら私がまとめます。冒頭にどんな環境かを聞いていたら悪い話しか出てこなくて、司会としてはどうしようかなと思いました。しかし2つ目のテーマから、分かりにくいセクターではあるけれど、ディープテックだからこそ透明性がより大事なんだというメッセージがありました。ファンを作っていって、投資家層を形成していくんだと。

より透明性を高めるという意味では、ディープテックだけではなくて、大企業も同じところがあると思います。コミュニケーションの話は他のセクターにもつながるところがあったと思っています。

最後の「今後のファイナンス戦略を総括!」は時間が足りませんでした。あと30分は話したかったです。野﨑さんのどこまで取るかという話は、透明性とつながるところで大事でした。

助成金や借り入れ、エクイティなど、ベストな資金調達を考えていかないといけない。これはCFOの役割の大きなところだと思うので、他のセクターとも同じかもしれません。ここの部分の工夫は我々CFOの腕の見せ所だということを改めて実感しました。

「ディープテック企業はどのように投資家と向き合うべきか」はこれで終わらせていただきます。ご視聴いただきましてありがとうございました。